<世界一の市場・印中へ、得意分野で打って出る>
―日本はこれからどうすべきでしょう。
山﨑 日本は技術を持っていますから、技術面で一番になる以外ないでしょう。トヨタがナンバーワンになれたのも、10年前にプリウスを手掛けたからです。世界最先端のトレンドを捉えて、先に環境対応をしたトヨタが勝った。トヨタはやってGMはやらなかったというだけです。だから今回も、他の国がみんな取り組んでいるのに日本が取り組まなければ、日本は負けてしまうでしょう。
食糧も水もエネルギーも、20年後には今みたいに不安定という甘いレベルではなくて、供給できなくなる、モノがなくなる、という深刻な状況になることがわかっているのですから、今から取り組まないといけない。今それをしっかりやった会社が、必ずその後の需要を取ることになると思います。
それと同時に、東京以外の地方から日本がどんどん成長する経済にしないとこの国はダメになります。なぜかと言うと、これから一番貧しくなるのは、3,300万人が住んでいて最も高齢化が急速に進むのが首都圏だからです。今まで給料をもらって税金をたくさん払ってきた人たちが、今度はもらう方になるわけです。しかも土地が足りない、介護施設も足りない。このままだと東京が日本の人口分布のブラックホールになってしまうでしょう。今の、東京さえ良ければいい、といった目先のことばかりやっていると、この国は本当に沈没してしまいます。
ではこれからどうすべきなのか。世界の工場は中国やインドになりましたが、世界の消費市場の中心も中国やインドになるわけですよね。であれば、一番お客様がたくさんいるところに行くのが当然でしょう。商売の基本です。作ったものをそこに持っていくか、そこで作って売るか、あるいは新しい商売を始めるか。
しかも、向こうが得意なものをやってもダメです。向こうが不得意なものをやらなければ。日本には安全で美味しい「食」がたくさんあります。環境技術やクリーン技術、ゲームやアニメなどの文化や産業も得意分野です。このようなライフスタイル、科学技術、環境技術、それに太陽経済が、これから中国やインドでどんどん受け入れられるようになると思います。福岡はその一番近いところにいます。
中村哲さんは、韓国に行き、その次はニューヨーク、パリに行き、そして世界展開するのだとおっしゃっています。私は料理学校「だから」世界が制覇できると考えています。
話を車に戻しますが、今後電気自動車普及して量産が進めば、価格は1台30~50万円になると思います。電気自動車ならば、必要な部品の数もガソリン車の1/10ぐらいで、製造も簡単になりますから自動車会社じゃなくても作れるようになるでしょう。そうなったときに自動車会社は生き残れるでしょうか。
―今はエンジンのところが多いですからね。部品もそうですし。
山﨑 もちろん電池などはまだまだ高いですが、これから量産効果でどんどん安くなりますし、いろんな分野の開発も進みます。今はプリウスが爆発的に売れていますが、完全な電気自動車になるとさらに燃費が安いです。三菱の「iミーブ」や、富士重工業の「スバルR1e」なら、東京と北海道の洞爺湖間でかかった電気代が1,713円です。
―燃料代がですか?
山﨑 そうです。以前は高速道路料金(銀座~八戸、苫小牧西~虻田洞爺湖)1万5,550円、ガソリン代が約1万3,000円、合わせて約3万円(八戸~苫小牧間のフェリー代は除く)かかっていた。それが、電気自動車の燃料代1,713円、その上に高速料金がタダになれば約10分の1で行けるわけですよ。
そういう価格破壊が起これば、車体だって安くなる。今まで車に使っていたお金を他に使えるようになります。そうなると、他にもっと満足度の高い商品を求めるようになる。それが例えば「一番美味しい日本食を食べたい」ということになるわけです。中村さんの考え方は非常にいいところを突いています。
先日、インドの日本食レストランで食事をする機会がありましたが、チャーハンと冷奴と味噌汁で1万円でした。それでもたくさんの人が食べに来ています。日本食というだけでこれほどいい価格を設定できるのです。
―さすがにお客さんは日本人以外ですよね。
山﨑 圧倒的に日本人以外です。例えば『WAGAMAMA』という日本料理屋さんがあります。日本では聞いたことないでしょう。イギリス人が経営しているのですが、ヨーロッパにはたくさんあって、すごく人気がありますよ。だから、日本人が本場の日本料理屋さんを出せば、もっと受けると思います。
―日本食がフランス料理と同じように世界で受けるわけですね。
山﨑 日本人は世界で唯一、世界中のあらゆる料理を自分たちの手で作れる民族なのだと思います。ミシュランに載っているどのレストランに行っても、必ず日本人のシェフや見習いがいますし、イタリア料理を引き継ぐのは日本人だと言われているぐらいです。そのくらい、日本の料理人たちは世界を制覇しているわけですよ。私は、そういう人たちに選ばれる日本の食材は、世界一になれるに決まっていると思っています。ならば、食材と料理をパッケージして輸出すればいい、ということも考えつきます。
頭を切り替えて、「市場が欲しがるものは何か」ということを考えればいいわけです。福岡だったら、空はきれいで白い砂浜があるし、空港から10分で中心部に行けます。アイランドシティに100フィートのヨットを泊められるようなハーバーを作るだけで、世界中のお金持ちたちが注目するでしょう。
【文・構成:烏丸 哲人】
山﨑養世(やまざき・やすよ)氏
1958年生まれ。福岡市出身。東京大学経済学部卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経営学修士(MBA)取得。大和証券を経て、ゴールドマン・サックス投信社長として同社を外資系トップの投信会社に育てる。ゴールドマン・サックス本社パートナー(共同経営者)等を歴任。02年、同社を辞し、シンクタンク 養世事務所を設立。金融・財政・国際経済問題等の調査・研究、政策提言を行なう。「高速道路無料化」を02年から提唱している。著書に『次のグローバル・バブルが始まった!』『日本「復活」のシナリオ~「太陽経済」を主導せよ!』(ともに朝日新聞出版)ほか。
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