九州展開に軸足を置き、味千ブランドの浸透へ
重光産業では、国内事業の直営店をブランド再構築の核に位置づけている。店長を中心にした人材教育や販促を見直し、売り上げを稼げる店舗を作り上げて「リ・ブランド化」を進める戦略だ。
直営店がエリアのリーダー的存在になることで、他店のモチベーションを上げるなどの相乗効果にもつながる。FCについては昨年から募集していないそうで、ブランド再構築が完了した時点で検討するという。出店エリアについても、現在は北海道まで出店しているが、「熊本の味千ラーメン」をまずはもっと地元に知ってもらうため、九州に軸足を置いた展開にシフトする。「出店先は福岡以外の各県」と重光社長は冗談まじりに語るが、集客が期待できる立地なら路面やビルインにはこだわらないそうだ。
ただ、お膝元の熊本への思い入れは人一倍強い。郊外はイオンモールなどの大型SC(ショッピングセンター)と、ディスカウントストアやカテゴリーキラーなどを中心に開発され、中心部は地盤沈下が激しい。熊本市によると、中心商店街の売り上げは1991年から07年までに、1,030億円も減少している。重光社長は「熊本市内で出店するところはない」というが、市街地の活性化という広い見地から、ラーメンを利用できないかとの構想も膨らます。
「2年後に九州新幹線の全線開通で新熊本駅が開業する。でも、それほどの波及効果があるとは思わない。むしろ、駅にアクセスする市電をリンクさせて、熊本城や水前寺公園などの観光地を回遊させる政策が必要ではないか。それなら、市電終点の健軍商店街にラーメン店を集めた“熊本ラーメン街道”も考えられる」(重光社長)。
市街地活性化の構想はともかく、同社のブランド再構築には店舗展開が不可欠。九州の埋もれた立地をいかに掘り起こし、味千ラーメンを浸透できるかが国内事業の再浮上のカギを握る。
ラーメン1杯550円で最高の価値を提供
当然、ブランド力を上げるため、商品力の強化にも取り組む。現在、定番の「味千ラーメン」は550円。原材料の高騰から昨年4月に価格を引き上げた。それでも利益の面では厳しいが、これ以上の値上げはしないという。それゆえ、現在の価格でラーメンとしての最高の価値を提供し、味千ブランドのロイヤルティーを高めていくということだ。昨今、外食産業が突き進む「低価格路線」とは、対極の考えである。
「ラーメン1杯550円というのは適正だと思う。それに一度価格を下げてしまうと、もう元には戻せない。他社の状況を見ても、低価格戦略では厳しいようだ。だから、この価格でもっと品質を上げて、550円では安いのではないか、と言われるくらいにしたい」と重光社長は力説する。
ある店長から提案された「表面を焼いて香ばしさを出すチャーシュー」はお客にも好評で、商品価値を上げる一手となっている。メニューのアレンジは手間がかかり、オペレーションも複雑になるが、現場も商品価値の創造に一生懸命のようだ。
また、餃子を100円台、自家製春巻きを100円にするなど、サイドメニューを安くする戦略も構想にある。これは『替え玉』がない味千にとって、お客に満腹感とお得感を同時に提供でき、店舗には客単価アップにもつながる。
メニュー戦略では、熊本が郷土グルメとして発信した「太平燕(タイピーエン)」をいち早く投入。昨年からは夏期限定メニューとして「爆辛ラーメン」を売り出し、今年は7月1日から新たなトレンドの「つけ麺」も加えるなど、新メニューの投入は不可欠とみる。太平燕は中華料理で炒める工程が必要で、つけ麺はゆでた後に冷ます時間を要するなど、手間はかかるが商品力向上のために、本社と店舗が一丸となって果敢に挑んでいる。
【剱 英雄】
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