8.バイクの故障
私はバイクや車を使って40カ所ほどの活動対象村を巡回し、村の住民に、啓発活動を行なう仕事をしていた。学校の先生にアンケートを渡していたので、それの回収に20カ所ほどの村を回っていた。アンケートを渡した際に、「来週までによろしくね」と伝えたにもかかわらず、ほとんどの先生が未記入だった。結局、未記入のアンケートの質問を繰り返し尋ねるという羽目になり、かなりの時間がかかった。朝から始めたのだが、回収を終えるころには日が暮れ始めていた。
帰りにバイクが道の真ん中でエンストした。試行錯誤したのだが、最後の10kmほど走ったところでついに動かなくなった。自分の家まであと20kmはある。だだの広い野原に、ポツンと自分1人だけ。日も暮れそうになっている。飲み水もなくなってしまい、喉もカラカラだ。このままバイクを押しながら20km歩くか。脱水症状で、ちょっと頭も痛くなってきた。結構、これってやばいかも。
そこへ、ふらりと男性がやってきた。「どうしたんだ?」と男性。「ちょっとバイクが動かなくてさ」と私。見せてみろと、男性がいろいろバイクのエンジンをかけようとする。ニジェール人はバイク好きである。10分ぐらいいじっていたが、全く動かない。「修理屋に持って行け」と男性は答えた。「ここから一番近い村ってどこ?」と聞くと、「あっちに10kmぐらい行ったところにあるけど」と男性は木の向こうを指差した。私の村とは方向が逆である。いずれにしても10キロ以上は歩かなければいけない。「ところであなたはどこに行くの?」と尋ねると、男性は私の住んでいる村に行くと言った。日暮れに20kmも歩くというのか。さすがニジェール人、健脚である。すると男性が、「じゃ、行くぞ」と言ってバイクを押してくれた。なんて親切な人なんだろうか。どこに行くにも、かなり距離がある状況なので、少しでも楽に村に戻りたい。私はとりあえずこの男性について村まで行くことにした。それから20分。あたりは真っ暗である。いよいよ、ふらふらしてきた。これは、さっきよりもまずい。私は「ちょっと待って」と男性に言うと、その場に座り込んでしまった。このまま、ここで野宿してしまおうか・・・、ふとそんな考えが頭をよぎる。男性も私の異変に気がついたのか、驚いてこちらを見ている。
そのとき、遠くから車の音が。荷物を山のように積んだトラックがやってきた。定期便のトラックである。いつもはもっと早くに動いているはずなのだが、今回はやけに遅い。これに乗ってしまえば、なんとか家に帰れる。私は手を振ってトラックを止めた。こんな夜遅くに、道の真ん中で、まさか異国人がいるなんて思ってもいなかったであろう運転手は、ちょっと驚きながらもバイクと男性2人分の金額を要求した。かなり高い金額だったが、ここで値段交渉するほどの元気もない。そのまま言い値で乗ることになった。
なんとか助かった。家に帰り、少しぬるい水を飲んだが、水がこんなにおいしかったとは。アフリカで生活していると、よく自分が生きているということ、それだけで感動することがある。そんなことを感じた体験だった。
【廣瀬】
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