地域の活性化には広い視野が必要
特色を活かした地域の発展に貢献する
<メガバンクとは違う地方銀行の役割と責任>
―海外での『現場』を歩んできた経験を踏まえ、メガバンクと筑邦銀行の組織とを比べてどうでしょう?初めて直面されることも多いと思いますが。
佐藤 おっしゃる通りです。そもそも、役割自体が違いますよね。第一勧銀時代にロンドン支店長として赴任し、その間に富士銀及び興銀と合併して「みずほ」が誕生しました。その結果、欧州地域統括役員という立場になったのですが、合併したからには拠点を減らしてスリム化をしなくてはなりません。理想をいえば合併前に済ませたい問題でしたが、人事面での取り組みが遅れたため、3行合わせてロンドンに1,000人いたスタッフを、1年で500人に減らしたのです。スタッフの国籍もさまざまだったので、本当に大変でした。
いい経験であったことには間違いないのですが、筑邦銀行では全く違う次元での地域貢献や役割がありますので、そういう意味では比べられる性質のものではないですね。ここにはメガバンクにはない、やり甲斐や面白さがあります。例えば、先日も筑後の中小企業経営者協会の総会に出席し、経営者の皆さんと膝をつき合わせて話し合いをしてきました。そのなかで、「ああ、ウチの銀行にこれだけの期待をしてもらっているのか」との思いを感じずにはいられませんでした。扱う数字は大きかったメガバンク的な『サラリーマン同士の付き合い』には決してない魅力ですね。また、メガバンクの場合ですと地域からの撤退という選択肢もありますが、我々は地元に密着してお付き合いしているので逃げるわけにはいきません。それだけの責任や期待を背負っているのです。
こういう金融環境ですから、我々も金融当局もナーバスになっているのが『貸し渋り』の問題です。永年お付き合いしているお取引先が苦しい状況になられたら、できる限りの支援をするのが地域金融機関の役割です。一方で、『貸出業務』は銀行の中心的な業務の1つですが、『預金業務』があってはじめて『貸出業務』が成り立つわけです。よって、我々を信用して託していただいた預金を守るため、どうしても貸し出しには慎重にならざるを得ません。預金者および株主に対しての義務を果たすため、不良債権の発生は極力防ぐ必要があります。
―とはいえ、『貸し渋り』と思われるのはつらいところ。最近、そのあたりの説明が足りないのでは?人間と人間の向かい合いの部分が希薄になってきているように感じます。
佐藤 実際に無理な投資をされようとする経営者もいましてね、それを止めておくということもあります。何年か経つと頭を冷やされて、「ああ、あの時に止めてもらってよかった。大変なことになるところだった」なんていうケースも間々ありましたね。たしかに、大きな銀行、小さな銀行に関わらず、人間関係が希薄になっているかもしれません。
昔はお客さんより銀行員の方が物知りだったもので、「支店長、これはどげんやろか」なんて、いろいろと頼りにされました。しかし、最近では経営者の方々が中国や東南アジアなどに行かれて、いろんなことをされていますね。逆に銀行は忙しくて海外視察なども少なく、お客さんの方が視野が広くなっている分、昔とは立場が逆転しています。そんなこともあって、今度の中期経営計画で「複眼的な視野をもつ銀行員にならなければいけない。だから勉強しなければ」と盛り込んでいます。まあ、言うだけなら簡単なんですがね。しかし、相談を持ちかけられるような支店長になるには、事務的なことだけをやっていては駄目だと。好況の晴れの日なら互いの担当者同士で事足りるでしょうが、不況の暴風雨の時にこそ頼りにされるような役員や支店長にならなければいけません。それが地元に密着した地方銀行の役割だと思います。
【文・構成:八戸 智幸】
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