死ぬ瞬間にしか結果はないし、
その結果は自分で決めるんです。
―ジャスダックへの上場も、厳しい状況下でのことだったと伺いました。
見城 うん。2003年の1月というのは、当時マーケットが一番悪いときで、上場予定の企業が全部回避したんです。でも、うちだけは回避しないで出て行った。売出価格が120万円で、201万円という初値が付き、1週間後には250万円を超えた。今は1株の額面がなくなっちゃったので株数が少なければ高い株価がつくけれども、当時で言えば1株当たり日本で一番高い株価になったんですよ。鮮やかな上場だったんです。
『GOETHE』も、初めての男性誌を全くの素人だけで創るという「無謀」だったけれども、それも圧倒的な努力をした。今度の『GINGER』だって、こんな出版・広告不況のなかで創刊されるという…1年前には創刊を決めていたんだけど、当時はまだリーマン・ショックも何もないし、ここまでの不況にはなっていなかったんだけど、でもそれも、圧倒的努力さえすれば大丈夫だと思ってやってきた。
「不可能だ、無理だ、無謀だ」っていうことをやらなければ鮮やかじゃないんですよ。圧倒的努力で鮮やかにすればいいんです。そして鮮やかになったときにブランド力が付くんです。僕は一度だって「儲けよう」と思ったことはなくて、ブランドをどう創るかということだけをずっと考えてきた。この、ブランドさえ鮮やかに創れれば「幻冬舎の本だったら読みたい」と思ってもらえるし、幻冬舎とならば組みたいというテレビ局や映画会社も増える。ブランドさえできればビジネスはついてくる、お金はついてくる、と思ってやってきたわけです。
―不況云々を論じても仕方ないんですね。
見城 だから、それはもうしょうがないじゃない。不況は不況なんだから。だって、僕が幻冬舎をはじめた16年前から、出版界はもう、活字離れで不況だった。でも、携帯よりも、DVDよりも、映画よりも、テレビの連ドラよりも面白いコンテンツを出せば、ちゃんと人々に求められて売れていくんです。確かに今は不況ですよ。でも不況だからこそ、圧倒的努力さえすれば、鮮やかな勝ち方があるはずなんです。
そりゃあね、苦しいですよ。思ってもみなかった株の減損会計があったり、思ってもいない事件があって特損を出さなければいけなかったりで、前期の決算は確かに苦しくはなりました。だけれども、自分の描いた見取り図はほんの少しも狂っていない。そのために圧倒的努力をこれからもしていこうと思っているわけで、僕は圧倒的努力をしない人生なんて面白くないのよ。一時でも何かに熱狂して圧倒的努力をしていなければ、僕は生きていけない。虚しいし、寂しいし、死が恐い。それを忘れるためにも、僕はこれからも圧倒的努力を続けていくしかないんです。
そういう意味で不況というのは、当たり前の話になっちゃうけど、一番のチャンスでもあるわけですよ。そのときにどういう方向性で圧倒的努力をするか、っていうのはその人・その企業の考え方だと思うんだけど、それをやらないで不況だ不況だって言っててもしょうがないわけ。
わが社は常にベストセラーを出し、大手出版社でも10年に1編出ればいいといわれるミリオンセラーを16年で14本出してきた。ここまでやってきたんだから、あと12年、俺が70歳になるまでに、講談社や集英社や小学館を抜くという思いでやっていかなければ。そのためには戦略も必要だし圧倒的努力も必要だし、それをやれなかったら、俺は死ぬときに満足して死ねないと思うんです。
人はなかなか、満足して死ぬってことはないと思うよ。事故か病気で死ぬんだから、苦しいですよ。僕だって死ぬ瞬間は苦しいと思う。でもね、死ぬ瞬間、「もう俺は死ぬのか、何にもできなかったなぁ」って思うかもしれないけれど、そのなかでも「でも俺、まぁまぁやったよな」って思って死んでいきたいんですよ。「人生の結果」っていうのは、その瞬間にしかないと思う。今の仕事の結果は全部プロセスで、死ぬ瞬間にしか結果はないし、その結果は自分で決めるんです。
【取材・文・構成:烏丸 哲人】
見城 徹 (けんじょう・とおる) 氏
1950年12月29日、静岡県清水市(現・静岡市清水区)生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、75年に株式会社角川書店入社。『野性時代』副編集長を経て、85年に『月刊カドカワ』編集長。直木賞作品5本を含め、数多くのベストセラー作品を送り出す。93年、同社取締役編集部長を最後に退社。同年11月13日、株式会社幻冬舎を設立。『弟』(石原慎太郎)、『大河の一滴』(五木寛之)、『ダディ』(郷ひろみ)などのミリオンセラー作品を自ら担当編集者として手がけ、経営者でありながら、今なお編集・宣伝・営業の第一線に立つ。とくにその斬新な広告やプロモーションは、業界の常識を変えたと評される。一方、映画やテレビドラマの企画・プロデューサーとしても活躍、その動向は各界の注目を浴びている。
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