<自力で立つ>
鹿児島県の阿久根・出水両市の牛肉生産者たちが、福岡市中央区舞鶴に肉のレストランをオープンして6年になる。安くて美味しい素材を使用して提供すれば、お客の支持を受ける。これは飲食ビジネスの鉄則だ。現在、このレストランは4店舗を展開している。商い的には年商6億円になっているとか。生産者たちはアンテナショップのつもりであったが、まさしく収益事業の中核に育った。既存のルートを超えて消費者と直接向かい合い、レストランという場で自分たちの生産物(精肉)を「飲食サービス」として提供する。お客は感激して喜び、生産者は納得できる単価で捌ける。この生産者直需経営レストランの方式が流行になった。
一次農産物の流通を押さえるJA鹿児島、JA宮崎両社とも危機感を抱いた。JA鹿児島は『華蓮』という店を直営している。ここでは、黒豚・黒牛のメニューを売り物に大繁盛しており、2店目もオープンした。この活躍を目の当たりにして、負けじとJA宮崎の子会社が福岡の中洲の中心部のビルで、宮崎牛・豚・鶏を素材にした飲食店を運営している。これまたヒットしているのは痛快だ。牛生産者にしろ、JAにしろ、「漫然と卸ルートに流しているだけでは、先はない」という共通の認識を抱いた。であれば、「大票田に自ら乗り込み、レストランサービスで消費者に売り込もう」というビジネスモデルにかけたのだ。
このパイオニアたちに刺激をうけて、次から次に模倣組が現れる。「博多リバレイン」の飲食ビルに、生産者が「鹿児島黒豚の店」を経営している。食べれば、たしかに美味しいことは保証できる。ただ、店の様相はあまりいただけない。店員たちの教育にも問題がある。失敗に直結するケースだ。念のため管理会社には、忠告した。「借主に素晴らしい店長をスカウトさせるくらいの指導をすべきだ」と。さすがに管理会社も心得ている。模倣組が淘汰されるのは、市場原理からいってやむを得ないことだ。ここで強調したいことは、限界集落を抱える地方から、大市場に殴り込みをかけようとする起業精神を褒め称えたいのである。
<地方の資源を生かせ>
誰が座して死ぬものか。「地方でビジネスできなければ、自力で活路を開く」という精神力で、前述の起業家たちが出現してきた。この流れはますます太くなっていくであろう。ドン底に落ちれば、必ず必死で這い上がってくる一団はある。これらの一団の『自力で立つ』姿勢が、地域の活性化の先導役を務める。これが大河になればシメタものだが、現実は甘くない。それでも、確実に意識は変動していく。既存の政治に対する意識も地殻変動を伴う。自民党政治の手法を、感覚的に「時代の遺物」と判断するだろう。
さて、地方の資源をフル活用する時代の到来だ。地方には農業・水産業・林業という、一産業の貴重な資産が無限にある。食は金だけでは輸入できない時代が来た。外材にしても、容易な買い出しが困難になってきた。この一次産品を逆手にとって、ビッグビジネスに脱皮させればよいではないか。第二次大戦が終わって、都市部の人たちは頭を下げて「お米を分けてください」と農家を回った。その再生の実現を目標設定することだ。地方の資源は、やり方によって輸出製品として武器になることもあり得る。『食を制する者は世界を制する』という命題が復活しようとしている。痛快な傾向だ。
(了)
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら