最近、ワシントンでオバマ政権下での初の米中による経済戦略会議が開かれました。その前には、クリントン国務長官やガイトナー財務長官が相次いで訪中しています。特に、ガイトナー氏の場合は事前にも事後にも日本を素通りし、ひたすら中国に媚を売っていました。
なぜなら、今や中国は米国債の最大の保有国だからです。そのため財政赤字に苦しむアメリカにとっては日本以上に中国の存在は無視できません。しかし、中国は日本と違って、アメリカの赤字国債を担保にとり積極的な外交や輸出攻勢を続けています。日本は同盟関係という美名の下、万が一、周辺地域で安全保障上の問題が起った時にアメリカに助けてもらいたいという意味で、米国債を買い支えているに過ぎません。ここに受け身の日本と攻めの中国の違いが読み取れます。
中国の強かな外交力が米中の経済戦略会議で発揮されました。というのも、中国保有の米国債の相当金額分をアメリカの不動産、具体的には飛行場や港、高速道路といった公的なインフラの所有権を担保として差し出すように求めたからです。それに応じれば、中国は米国債を手放さないようにするとのこと。米中間では、そういう交渉が水面下で行なわれています。
もはや「G7」「G8」ではなく、中国はアメリカとの「G2」を目指しているのです。たとえば、オバマ大統領の外交問題の指南役であるズビグニュー・ブレジンスキー(カーター元大統領の国家安全保障担当補佐官)という人物などは、今後の米中関係を「チメリカ」だと表現しました。
7月のイタリアでのサミットの際、中国では新疆ウイグル自治区で民族暴動が起こり、胡錦濤国家主席は飛んで帰りました。一方、日本の麻生総理は必死にオバマ大統領にアプローチしましたが、相手にもされなかった。胡主席はオバマとの会談にこだわらなかったのは、ワシントンでの米中経済会談を控えていたこともあり、余裕の姿勢を誇示したのでしょう。
日本には「世界第2位の経済大国」という過去の栄光がありますが、国としての影響力や外交手腕で見れば、明らかに中国の方が上手です。中国の最大の力は人口。表向きは13億人と言われていますが、ある政府要人によれば16億人はいるそうです。
驚くことに、中国はアフリカへの3億人の移住政策を発表しました。アフリカにはたくさん未開発の資源がありますから、それを押さえようという考えです。それだけの人間を動かせるということ自体、国家の大きな力を表しています。
【文・構成:大根田康介】
※7月31日の内外ニュース「福岡懇談会」における講演の要約【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
国際未来科学研究所代表。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。
ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『たかられる大国・日本』(祥伝社)をはじめ著書多数。最新刊はオバマ新政権の環境エネルギー戦略と日本への影響を分析した『オバマの仮面を剥ぐ』(光文社)。近刊には『食糧争奪戦争』(学研新書)、『石油の支配者』(文春新書)、『ウォーター・マネー:水資源大国・日本の逆襲』(光文社)、『国力会議:保守の底力が日本を一流にする』(祥伝社)、『北京五輪に群がる赤いハゲタカの罠』(祥伝社)、『団塊世代のアンチエイジング:平均寿命150歳時代の到来』(光文社)など。
なお、『大恐慌以後の世界』(光文社)、『通貨バトルロワイアル』(集英社)、『未来ビジネスを読む』(光文社)は韓国、中国でもベストセラーとなった。『ウォーター・マネー:石油から水へ世界覇権戦争』(光文社)は台湾、中国でも注目を集めた。
テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。「サンデー・スクランブル」「スーパーJチャンネル」「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「みのもんたの朝ズバ!」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)「ミヤネ屋」(日本テレビ)など。また、ニッポン放送「テリー伊藤の乗ってけラジオ」、文化放送「竹村健一の世相」や「ラジオパンチ」にも頻繁に登場。山陰放送では毎週、月曜朝9時15分から「浜田和幸の世界情報探検隊」を放送中。
その他、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、エネルギー問題研究会・研究委員、日本バイオベンチャー推進協会理事兼監査役、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、国際情勢研究会座長等を務める。
また、未来研究の第一人者として、政府機関、経済団体、地方公共団体等の長期ビジョン作りにコンサルタントとして関与している。
【最新刊】
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら