チャイナ・インベストメント・コーポレーション(CIC)という名の、中国の政府系投資会社、いわゆる国富ファンドがあります。これまではアメリカやヨーロッパの金融機関へ投資をしていましたが、思ったほど利益を上げていません。そこで今では投資方法を変えて、中国のインフラに投資して内需拡大を促すようになりました。
昨年の四川大地震やチベットでの暴動、そして最近の新疆ウイグル自治区での問題など、国内のあちこちで不平不満が渦巻いています。それを抑え込むには経済的豊かさを与えることが必要です。そのための内需拡大策を強化しようとしているわけです。
そのなかでCICが構想を練っているのが、首都・北京の移転計画です。オリンピックが終わったため北京にこだわる必要がなくなりました。ご承知のように、北京では住環境が悪くなり、犯罪率も高まっています。水や大気の汚染もひどく、健康被害が深刻です。移転先として最も注目されているのが、かつての都である西安です。お金や人の流れを変えて一気に環境を変えようという戦略に違いありません。
この首都移転計画に加え、もうひとつ戦略的に進めているのが、国内産業の育成です。最重点産業は自動車です。今や、中国は世界最大の自動車マーケットになりました。毎月100万台以上の自動車が売れていますが、そんな国はほかにありません。アメリカや日本を追い抜いたといえるでしょう。
中国では国内の自動車メーカー300社以上がしのぎを削っています。問題は国産自動車メーカーの技術が劣っていること。2年前のデータですが、新車で1年以内にトラブルが起こった故障発生率が74%でした。そんな車を生産しても、国際競争力は得られません。そこで胡錦濤主席も温家宝首相も、海外から必要な技術を取ってくる(走出去)ことを指示しました。
アメリカではGMが国有化され、ハマーというブランドを四川省の重機メーカーが買いました。車を一台も作ったことのない中国の地方企業が、なぜこんなことができるのか。それは国がバックについているからです。できることなら、トヨタもホンダもGMもクライスラーも全部買収してしまいたい。そんな野心も感じられます。信じがたいでしょうが、時価総額から言えば中国企業には可能なことなのです。
【文・構成:大根田康介】
※7月31日の内外ニュース「福岡懇談会」における講演の要約【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
国際未来科学研究所代表。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。
ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『たかられる大国・日本』(祥伝社)をはじめ著書多数。最新刊はオバマ新政権の環境エネルギー戦略と日本への影響を分析した『オバマの仮面を剥ぐ』(光文社)。近刊には『食糧争奪戦争』(学研新書)、『石油の支配者』(文春新書)、『ウォーター・マネー:水資源大国・日本の逆襲』(光文社)、『国力会議:保守の底力が日本を一流にする』(祥伝社)、『北京五輪に群がる赤いハゲタカの罠』(祥伝社)、『団塊世代のアンチエイジング:平均寿命150歳時代の到来』(光文社)など。
なお、『大恐慌以後の世界』(光文社)、『通貨バトルロワイアル』(集英社)、『未来ビジネスを読む』(光文社)は韓国、中国でもベストセラーとなった。『ウォーター・マネー:石油から水へ世界覇権戦争』(光文社)は台湾、中国でも注目を集めた。
テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。「サンデー・スクランブル」「スーパーJチャンネル」「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「みのもんたの朝ズバ!」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)「ミヤネ屋」(日本テレビ)など。また、ニッポン放送「テリー伊藤の乗ってけラジオ」、文化放送「竹村健一の世相」や「ラジオパンチ」にも頻繁に登場。山陰放送では毎週、月曜朝9時15分から「浜田和幸の世界情報探検隊」を放送中。
その他、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、エネルギー問題研究会・研究委員、日本バイオベンチャー推進協会理事兼監査役、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、国際情勢研究会座長等を務める。
また、未来研究の第一人者として、政府機関、経済団体、地方公共団体等の長期ビジョン作りにコンサルタントとして関与している。
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