最近、『ブラック・スワン』と題するニコラム・タレブ氏の著作が世界で評判を呼んでいます。我々は普段、白鳥というと「白い」をイメージしますが、実際には黒い白鳥もいます。そのため、目の前に黒い白鳥がいても、「その鳥を白鳥(スワン)とは認識しない」という現象が起こるようです。
つまり、目の前に新しいサービスや発見、意外な環境の変化が起こっているのに、ついつい昨日までの常識にとらわれて物事が見えないということがあるのです。我々の周りでは「9.11テロ」のような想像を絶するような事件が起こっています。かつてない伝染病も蔓延し始めているようです。これからも起こるでしょう。そんな時代に我々は生きているわけですから、過去の常識にとらわれてしまうと、危機に飲みこまれ、ビジネスチャンスを逃してしまう可能性があります。
地球温暖化に関する問題も日々報道されています。しかし、少し視点を変えてみると意外な事実に突き当たることがあるはずです。たとえば、地球はミニ氷河期に向かっているとの説もあります。太陽の黒点活動が最低レベルにまで低下していることの結果です。ただ、そうした事実を知ったとしても、我々自身がそれを認めたくない、それを受け入れられないというのでは真実を手にすることはできません。言い換えれば、既成概念の虜になっていたのでは、目の前に広がる、大きなチャンスを逃すことになるのです。
今、「100年に1度の危機」ということが盛んに言われていますが、本当かどうか。疑ってみる必要があるでしょう。もう一度「なぜ消費者がモノを買わないのか」を、マスコミ情報に左右されるのではなく、自分の視点で分析しなければ、新たなチャンスをモノにはできません。第一、景気が悪いと不満を言うだけでは景気は決して良くなりません。不満だけを口にしている人もいれば、黙って成功している人たちもいるのです。上手くいかないことの言い訳に「100年に1度の経済危機」を使っていては成功するはずがありません。
世界の大きな流れのなかで、我々一人ひとりが自分の立ち位置を見つめ直し、自分たちの潜在力をどう生かすのか。自分たちの国や地域に対する愛着や自信をベースにして、常識という曇りガラスをきれいに拭いてみる。人とのつながりを総点検してみる。そういう新たな視点で考え実践する時だと思います。「ブラック・スワン」現象の虜にならないようにしてほしいものです。
【文・構成:大根田康介】
※7月31日の内外ニュース「福岡懇談会」における講演の要約【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
国際未来科学研究所代表。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。
ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『たかられる大国・日本』(祥伝社)をはじめ著書多数。最新刊はオバマ新政権の環境エネルギー戦略と日本への影響を分析した『オバマの仮面を剥ぐ』(光文社)。近刊には『食糧争奪戦争』(学研新書)、『石油の支配者』(文春新書)、『ウォーター・マネー:水資源大国・日本の逆襲』(光文社)、『国力会議:保守の底力が日本を一流にする』(祥伝社)、『北京五輪に群がる赤いハゲタカの罠』(祥伝社)、『団塊世代のアンチエイジング:平均寿命150歳時代の到来』(光文社)など。
なお、『大恐慌以後の世界』(光文社)、『通貨バトルロワイアル』(集英社)、『未来ビジネスを読む』(光文社)は韓国、中国でもベストセラーとなった。『ウォーター・マネー:石油から水へ世界覇権戦争』(光文社)は台湾、中国でも注目を集めた。
テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。「サンデー・スクランブル」「スーパーJチャンネル」「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「みのもんたの朝ズバ!」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)「ミヤネ屋」(日本テレビ)など。また、ニッポン放送「テリー伊藤の乗ってけラジオ」、文化放送「竹村健一の世相」や「ラジオパンチ」にも頻繁に登場。山陰放送では毎週、月曜朝9時15分から「浜田和幸の世界情報探検隊」を放送中。
その他、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、エネルギー問題研究会・研究委員、日本バイオベンチャー推進協会理事兼監査役、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、国際情勢研究会座長等を務める。
また、未来研究の第一人者として、政府機関、経済団体、地方公共団体等の長期ビジョン作りにコンサルタントとして関与している。
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