<主戦場は自販機>
清涼飲料の主戦場は自販機である。スーパーのように値崩れがなく、多額のマーケティングコストもかからず、それでいて手堅い売上が計算できる自販機チャンネルは、どのメーカーにとっても垂涎の的だ。
日本自動販売機工業会の調べによると、08年末現在の自販機普及台数は400万5,900台。うち55.7%に当たる223万台が清涼飲料用自販機だ。清涼飲料自販機の年間売上高は2兆1,497億円にのぼる。
余談になるが、屋外の設置数の多さは世界的に群を抜く。米国やアジアでは屋外で見ることはまずない。コソ泥たちにとっては、屋外に金庫を置いているようなものだ。屋外自販機の多さは、日本の治安の良さの証左だろう。
一方、全国清涼飲料工業会の調べによると、08年1年間の清涼飲料の販売額は3兆6,697億円。清涼飲料の58.6%が自販機で売られている計算だ。多くの職場に自販機が置かれてあり、社員の4割が毎日利用しているという調査もある。
自販機チャンネルをめぐって、清涼飲料業界の再編が繰り広げられる。
<花嫁候補はダイドードリンコ>
業界再編の花嫁候補になるのが、自販機の設置台数の多いメーカーだ。サッポロとポッカの資本提携は「弱者連合」でしかない。ポッカは日本初の缶コーヒーを世に送り出したことで有名。創業者が名神高速道路の運転中に、「眠気覚ましのコーヒーを飲みたい」と思ったことが商品開発のヒントだった。
しかし、ポッカは自販機への進出に出遅れ、設置台数は約9万台。サッポロはわずか約3万台。両社合わせても約12万台にとどまる。そのためサッポロとポッカの資本提携は、清涼飲料業界の再編には力不足。明治乳業と明治製菓が統合した明治ホールディングスに、自販機を持参金に身売りする布石と受け取られたのも無理はない。
再編の花嫁候補は、日本茶の分野で圧倒的なブランド力を持つ伊藤園(東京都渋谷区、設置台数約13万台)と、コーヒー分野で強いダイドードリンコ(大阪府大阪市、同約29万台)。なかでも、引く手あまたなのが自販機に強いダイドーである。
ダイドーは売上高では業界10位だが、自販機の設置台数(約29万台)や缶コーヒーの販売量では業界3位。売上の約9割は自販機販売が占める、自販機に特化したメーカーだ。
アサヒ飲料がいつM&Aに動くかに注目が集まる。アサヒの08年清涼飲料のシェアは7.7%で、第5位のメーカー(自販機台数では4位)。キリンとサントリーの統合が実現すれば、2強の背中は、はるか遠くに去っていく。
5年ほど前、コカ・コーラへの対抗軸として、アサヒ・JT・ダイドーの3社自販機連合が持ち上がったことがある。だが、アサヒとJTの主導権争い、肝心のダイドーが提携に乗り気でなく話が流れた経緯もある。
今後、ダイドー争奪戦が再燃するのは確実だ。アサヒがどんな手を打つのか、清涼飲料業界再編の注目点だ。
【日下 淳】
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