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山水建設への遺書(2) 企業理念の変遷―その1/野口孫子 氏
経済小説
2009年8月21日 13:08

企業理念の変遷 1

 山水建設の企業理念は、創業社長である山田を抜きには語れない。創業25年事業の一環として、山田を中心に、企業の理念を作ろうということで制定されたのである。
 その哲学の中心に据えられたのが「人類愛」であった。
 「人類愛」は、孔子の教えである「仁」の心である。大河ドラマにもなっている直江兼続が掲げる「義と愛」に通じるものである。
 山田は、お客様はもちろんのこと、社員も大切に思い、下請けの工事店、職方、納材業者に至るまで、「人を大切に」と実践してきた。社内においては上役に厳しく、下役には寛大に対処し、自由闊達な組織を作り上げてきた。そのため、山田を慕う社員は数多く、会社の危機存亡時は過剰労働もいとわず、全国津々浦々に社員自らの意思で身を投じていった。
 「わが社には労働組合はいらない。なぜなら、山水建設の組織構造は『労使』の関係ではなく、私を含めて『労労』の関係だからだ」
 これは、山田の常日頃からの口癖だった。組合を作らせるのがいやで言っていたのではなく、
「上役も下役もない。社員全員参加の経営をしていかないといかん」
 心から、そう思っていたのである。その証として、通常2回(夏期、冬期)の賞与に、中間決算や本決算で利益が出たら、3月、9月にも賞与を追加し、年4回の支給としたのである。
 好業績が続いていたので、年4回の賞与は既定のものとなっていた。そのことが社員の士気を高め、業界ナンバーワンの位置を占め、山水建設の評価を高くしていったのである。
 このように山田が築いた企業風土も、強権主義の坂本が社長に就任したことにより、崇高な企業理念とともに片隅に追いやられてしまったのである。以降、会社の企業理念を無視するかのような人事政策などが社員の士気を落とし、ボディーブローのように効いてきていたのだ。

~つづく~

(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)


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