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山水建設への遺書(4) 企業理念の変遷―その3/野口孫子 氏
経済小説
2009年8月24日 08:00

企業理念の変遷 3

 現在の山水建設は、坂本が会長CEO、斎藤が社長COOの体制を敷いてはいるが、実質は従前と変わりなく、坂本が全権を掌握しているのが実態である。
 斎藤も入社以来、地方での営業で活躍していた。地方で実績を上げ、坂本に見いだされて、社長まで上り詰めてきたのである。
 しかし、創業社長の山田の影響を強く受けていることがうかがえる。新社長として、『斎藤色』を出したいのだろうが、坂本の掌からはみ出すことができないでいる。
 昨今の社会情勢は、建設業界にとって冷たい逆風が吹いている。その逆風は嵐と表現しても過言ではないだろう。業績的にも、今までに経験のないような苦境に陥っている。そのため、社長としての斎藤からは、こんなメッセージが社員たちに向けて飛んでいる。
「自由闊達な企業風土を取り戻そう」
「企業理念を再認識しよう」
「原点に戻ろう」
 山田社長時代に培われた、社員が一致団結するという過去の伝統。斉藤が声高に訴えている内容は、過去に置き忘れてきたそのことを言っているに過ぎない。
 しかし、かつて存在したその土壌は、坂本がぶち壊してしまったのである。
 坂本が企業理念を無視した、専制君主のような恣意的な人事、強圧的な命令、上意下達のシステムは、一部のごますり社員や偉大なるイエスマンたちだけを潤し、彼らは坂本をヨイショする。しかし、まじめで正義感のある大半の幹部や社員たちは、そんな体制に違和感を持っている。そのことが社員の士気を落とし、会社の力を弱めていることに早く気がつくべきだろう。
 斎藤が企業理念の再認識をいくら訴えても、現体制のままでは何も変わらない。
「社員には役職はあっても上下はない。お互い自由に話し合える組織にするべきである」
 かつて、山田がそう言って作り上げた土壌を、斎藤が坂本と話し合って再生させない限り、昔のように社員が一致団結することにはならないだろう。

~つづく~

(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)


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