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山水建設への遺書(5)  海外事業への進出―その1/野口孫子 氏
経済小説
2009年9月 3日 08:00

海外事業への進出 1

 山水建設はオーストラリアに進出すると、突然発表した。
国内の需要の展望が将来期待できないので、海外に進出し、生き残りをかけるというのが大義名分だろう。10年かけて、2,000億円の投資を行なう予定だという。
 海外進出というと、傍目には華やかに見える。しかし、山水建設の歴史を紐解くと、海外事業は失敗の連続だった。
 40年前、創業社長の山田が当時の西ドイツに進出していた。しかし、「家電や自動車とは全く違い、建設事業は施工を伴い、建築基準法も違ううえに住習慣も違う。施工も販売も現地人に任せるしかなく、日本方式が全く通用しないことを教訓として学んだ。高い授業料だった」と、結局は大きな損失を出して20年前に撤退せざるを得なかったことを、後に述懐していた。
 このことを、今の経営陣が知らないはずがない。ここでも坂本の言いなりのイエスマンだけの経営陣が垣間見える。
 現に数年前、同業他社が中国に進出すということが、新聞で発表されると、坂本は「アホや!」と小馬鹿にしていた。
 坂本は本来海外進出には消極的だったはずである。
山水建設の業績の悪化、国内の請負建設事業の低迷。さらには頼みの綱である一等地での都市開発事業も見通しも立たず、焦りがあるのではないだろうか。
 「中国とオーストラリアでは違う」と反論があるかもしれないが、人口比でいうと15億人に対して2,000万人。70倍ほどの差がある。中国の近年の発展をみれば、富裕層がたった2%だとしても3,000万人もいる計算になる。日本の人口の4分の1もの人間が富裕層に属するということを考えれば、市場性としては中国の方に遥かに分があるのではないだろうか。同業他社の方が先見の明があるように思える。
 海外進出は過去の痛い経験で、よほどの自信がない限り、経営者として決断しないはずである。
 何か、坂本を駆り立てる理由があるのだろうか。

~つづく~

(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)


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