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山水建設への遺書(6)  海外事業への進出―その2/野口孫子 氏
経済小説
2009年9月 4日 08:00

海外事業進出の懸念 2

 実は山水建設は30年前、改革開放の始まったばかりの中国の将来の成長を見越して、本格進出ではないもののパイロット的に上海に進出。ドイツに続いて、拠点を作っていたことがある。
 しかし、当時の中国は今のような市場性もなく、利用されただけで何の成果もなく、ここも撤退を余儀なくされたのである。

 ことごとく海外への進出は失敗していた。
 創業社長の山田は、「海外進出は高い授業料だった」と後に述懐していた。

 建築、住宅はその国の民族の、歴史、文化そのものである。その国の事を知らない日本人が提案したところで、現地で受けいれられるのは難しい。外国人に「日本の純和風の家を設計せよ」といっても、できないのと同じであろう。
 そのような背景を知っていながら、「何故、今、海外なのか」。意図がわからない。

 山水建設には、オーストラリアに進出すると発表する前に、すでに中東のドバイに500億の投資をしている、という噂が飛び交っていた。
 その噂が事実であれば、リーマン・ショックによってドバイでの不動産投機は崩壊。紙切れ同然になっているはずである。
 坂本がロンドンにIRの説明に行った際、最大手の山村証券に紹介された、ロンドンの投資会社の甘い誘惑の推薦に乗り、ついついドバイとオーストラリアに不動産投資をしてしまったのではなかろうか。ドバイは歴史的にイギリスの影響力が高いし、オーストラリアは元々イギリスが宗主国である。そのような関係の深い、イギリス・ロンドンの投資会社を信用してしまったのだろうか。

 坂本は昨年4月、会長CEOに就任、唐突に「国際部」を設立。高らかに「海外事業の展開をしたい」と言っていた。
 石油の暴騰で中東のオイルマネーで沸き立つドバイ、基礎資源の暴騰に沸くオーストラリア。これに投資をして、国内の不振を海外で挽回できるとでも考えたのだろうか。

~つづく~

(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)


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