海外事業進出への懸念 3
昨年秋、世界は誰もが予想しなかった、かつての世界恐慌再来を思わせる、未曾有の経済危機に直面した。
その1年~半年前、坂本にイギリスの投資会社から甘い誘惑があったことは、想像に難くない。
あのNHKですら、「沸騰するドバイ!」と特集を組み放映していた。超高層ビルが設計段階から世界中から投資のマネーが入り、工事中に何回も転売され、完成後には数倍になっている。マネーがマネーを呼ぶ沸騰都市を呈していた。
オーストラリアも同様、鉄、アルミ等の資源生産国は資源高騰によって、オイルマネー、投機マネーで沸騰していた。
そのような時期に、イギリスの投資会社から甘い話に乗せられてしまったのだ。
社内外にも発表もせず、坂本は密かに、ドバイとオーストラリアへの投資をしたのだろう。
リーマン・ショックの半年前、世界は浮かれていた。
高らかに、「国際部を新設、これからは海外事業を展開する」、「開発事業、海外事業は坂本会長CEOの担当、主力の既存事業は斎藤新社長COOの担当」、と坂本会長CEOの就任時に記者団に語っていた。
坂本がこのような独断専行的な決断できたのは開発事業の専門の中村副社長の退任よることが大きい。
ここまで開発事業を経営の中核事業まで押し上げた中村副社長は、任期の途中に退任した。その中村は、ドバイ進出には反対していた。「投機的な動きは危険」と進言していたのだが、国内の開発事業の低迷による業績不振と海外事業への反対等で、二人の関係は完全に冷え切っていた。そのため、任期半ば、中村副社長は追われるように山水建設を去っていった。
坂本に対する中村という「重し」が取れたため、一気に海外へ展開を始めた。
経済危機後、ドバイは壊滅的になり、建設中の超高層ビルは工事ストップ。投資した者は紙屑同然をつかまされた。山水建設も同様だろう。オーストラリアは、現物の土地および建築物は値下がりしているものの、辛うじて「テコ入れすれば、事業の可能性あり」として、「オーストラリア進出」と発表した。
このあたりから、海外事業展開の理由が、「何故、今、オーストラリアなのか?」が見えてくる。
すでに投資してしまっているので、引くに引けず、止むを得ずの海外進出ではなかったか。
創業社長の山田がかつて「高い授業料だった」と述懐した、その失敗は全く生かされなかった。
このことが山水建設の将来を左右しなければと願っている。
(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)
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