「いよいよ、あと一週間で告示となります。時が迫ってきています。言葉を荒げることもあろうかと思います。理不尽なことを言うこともあろうかと思います。大変申し訳ないが、みなさんのお力をお貸しください。私の頭なら、選挙が終わったあと、どれだけでも下げます。責任は私が取ります。どうかよろしくお願いします」
一時期整いかけた指揮命令系統のキーマン、先述の企業経営者A氏が、朝礼の席で語った。このまま進めば、間違いなく事務所は空中分解に陥ったであろうというタイミングで発せられたこの一言は、事務所を一歩先に進めたように感じられた。
事実、この言葉の直後から、ボランティアスタッフたちへの命令は、原則的にこのA氏からのみ伝えられるようになる。誰が、何を、どう進めるのかが、はっきり分かるようになる。まとまりのなかった事務所に、一本のラインが形成された。
選挙対策事務所の主な仕事は二種類に分けられる。支援者たちと直接会い、支援の呼びかけや集会などのイベントを行なう外務と、資料づくりや電話コールなどを行なう内勤の2つである。前者は主として各地区担当の秘書が務め、後者はボランティアスタッフなどによってなされる。イベントなどの資料づくりは、楠田事務所ではこれまで、各秘書からそれぞれに内務に発注していたのだが、それにより、作業の進捗管理が全く把握できなかった。
さすがは国政選挙である。一つの資料のセッティングも、その数の単位は千、ときには万なのだ。それを把握しないまま、ある秘書は「明日までに5,000折り込んでくれ」、その数分後に「明日の朝までに3,000折り込んでくれ」とくる。このような状況が内務にパニックと不満を募らせるようになっていた。
そこにA氏の登場である。彼が頭を下げ、内務のモチベーションを高め、責任の所在を明らかにし、さらに外務からの発注窓口となることで、所内の作業状況の把握がなされるようになったのだ。
完璧とはいえないかもしれないが、組織としてまとまりをみせるようになった。おそまきながら、いよいよ戦闘準備が整ったのだ。
【柳 茂嘉】
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