このような非日常的な生活を1週間経過した時点で、2つのグループの聴力、視力や記憶力についてテストを行ったところ、後者のグループは前者のグループと比べはるかに好成績を収めたという。それどころか、後者のグループにおいては関節の痛みが減少したと実感する人々や、記憶力が目覚ましく改善したと大喜びする人たちが続出した。
そして、実験の前と後に撮影された被験者たちの顔写真を外部の第3者に見てもらったところ、明らかに後者のグループの人々は見た目が若々しくなっていたのである。また、老人特有の指が思うように動かないような症状が改善し、関節が元に戻るほど指も長くなったというではないか。
この実験結果に基づき、ランガー教授はさらに様々な追加の実験を行い、データの収集に努めた。その結果、意識と健康状態の間には相関関係があることが立証されたと言う。これは別に高齢者だけに当てはまることではないようだ。
別の実験では、ホテルで働くメイドさんたちに被験者となってもらった。彼女たちは30代から40代であったが、ホテルでの長時間労働で、家族の世話を見る時間も限られ、皆が運動不足や体調不良を訴えていた。
そこでランガー教授は、彼女たちにホテルの清掃の仕事は運動不足を解消する上では極めて有効であることを説明したのである。そのことを理解した後に、彼女たちはこれまでと同じ仕事を続けたのであるが、4週間後に調査をしてみると平均一人当たり1キロ近く体重を減らしていたのである。
それまでは運動不足に体調の不具合を訴えていた人々であったが、仕事を通じて健康管理が達成できることを意識下に植え付けられたことで、以前とはまったく違う効果が確認されたのである。
このことをラングラー教授は「マインドフルネスの効果」と名付けた。すなわち日常的な繰り返しやつまらない作業と思いこんでいたことでも、それが意外に自分の健康にとって不可欠の作用をもたらすということに気付けば、意識と体が調和し肉体の問題を改善するきっかけになったのである。
たとえ小さな変化であったとしても、自らがその変化を楽しむことができるようになれば、我々の置かれている環境が劇的に変化をすることを示唆している。我々はどのようなものにせよ、自分の肉体の変化の兆しに気づくだけの「マインドフルネス」を持つことができれば、病気や怪我を未然に防ぐことが意識的に可能になるというわけだ。
【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
国際未来科学研究所代表。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。
ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『たかられる大国・日本』(祥伝社)をはじめ著書多数。最新刊はオバマ新政権の環境エネルギー戦略と日本への影響を分析した『オバマの仮面を剥ぐ』(光文社)。近刊には『食糧争奪戦争』(学研新書)、『石油の支配者』(文春新書)、『ウォーター・マネー:水資源大国・日本の逆襲』(光文社)、『国力会議:保守の底力が日本を一流にする』(祥伝社)、『北京五輪に群がる赤いハゲタカの罠』(祥伝社)、『団塊世代のアンチエイジング:平均寿命150歳時代の到来』(光文社)など。
なお、『大恐慌以後の世界』(光文社)、『通貨バトルロワイアル』(集英社)、『未来ビジネスを読む』(光文社)は韓国、中国でもベストセラーとなった。『ウォーター・マネー:石油から水へ世界覇権戦争』(光文社)は台湾、中国でも注目を集めた。
テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。「サンデー・スクランブル」「スーパーJチャンネル」「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「みのもんたの朝ズバ!」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)「ミヤネ屋」(日本テレビ)など。また、ニッポン放送「テリー伊藤の乗ってけラジオ」、文化放送「竹村健一の世相」や「ラジオパンチ」にも頻繁に登場。山陰放送では毎週、月曜朝9時15分から「浜田和幸の世界情報探検隊」を放送中。
その他、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、エネルギー問題研究会・研究委員、日本バイオベンチャー推進協会理事兼監査役、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、国際情勢研究会座長等を務める。
また、未来研究の第一人者として、政府機関、経済団体、地方公共団体等の長期ビジョン作りにコンサルタントとして関与している。
【最新刊】
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら