~雇用形態の階層化は、本当に広告会社の戦力アップになってきたのか?
実は、記者も10年前まである大手広告会社に所属していた。15年前頃までは各部署にアルバイト社員はいたが、派遣社員も契約社員も、その存在はほとんど知られていなかった。しかし、90年代後半より各広告会社は自前の派遣会社を設立し、そこにアルバイト社員を移籍させて、そこから各部署へ派遣させる仕組みに変えていっていた。さらに、契約・嘱託社員として新規の人材を雇用し、正社員への登用のチャンスがあるかのようにして正社員の数は増やさず、絶対的な人件費の抑え込みを図っていたのがこの10年である。
ある大手広告会社のOBによると、こうした雇用形態の階層化によって広告会社内部の同属意識は確実に薄れ、所属する雇用形態のなかでの交流はあるものの、各階層がいっしょに食事に行ったり、アフター5を共にしたりすることはほとんどなくなってしまったとのことである。
契約社員から正社員への登用の道はあると言われながら、実際に登用試験は5年に一度のチャンスで、それで受からなければ次は5年後にしか正社員になれる可能性はなく、しかも正社員になれるのは本当に一部でしかないらしい。
財務的視点だけから見れば、雇用形態を多様化して人件費を抑えることは経営の一般的手段であろう。
しかし、階層間格差によるモラルの低下は、目に見えないところで広告会社の攻めるパワーをも低下させてきたのではないだろうか。
さらに、このところのコスト削減のトレンドは、外部スタッフへの発注を極端に減らし、クリエイティブなどの内制化を推し進めている。先日も、東京のフリーのコピーライターと話していたら、今年になって広告会社からの発注がほとんどなくなり、生活に困るほどだとのこと。
ところがこの10年、正社員のクリエイターたちは多くの仕事をこなすことが優先された。しかも、仕事はディレクションが中心で、実際の仕事は派遣や契約社員、外部スタッフに依存していたため、自分でコピーを書いたり、企画を練ったりすることができなくなっていたのが実態だと言える。
テレビ番組が面白くなくなったのも、テレビ局の社員は何も頭を使うことなく、ほとんど外注のプロダクションに丸投げしてきたことが原因ではないかと言われる。
同じように、プロパー社員の戦力ダウンが、広告会社のクリエイティブや企画の仕事で起きていることは間違いない。正社員たちの企画力を立ち直らせ、クライアントの期待に沿えるまでには、相当な時間が必要だろう。
【松尾 潤二】
※記事へのご意見はこちら