~広告会社が上場して得た資金は、いったいどこに消えてしまったのか?
広告会社の上場一番乗りは、アサツーDKであった。当時、電通や博報堂を追いかける立場のアサツーDKとしては、上場により得た豊富な資金で、優秀な人材を確保したり、中国を中心とした海外拠点への先行投資をしたり、という明確な目的と方向性が見えていた。
しかし、その後を追った電通も博報堂も、上場により得た資金をどのように使うのか、明確な目的がなかったように思われる。
それでも電通の場合は、海外企業を買収したり、自社ビルの建設に当てたり、上場資金を将来への投資のために振り向けているが、博報堂は大広と読売広告社を持ち株会社に取り込んだものの、上場資金が積極的な投資に使われたようには思えない。
現役社員の話を聞くと、「上場のために、財務面をはじめ会社としての体裁を整えるための仕事が多くなった。以前の広告会社らしい自由さは失われ、表向きはしっかりした会社に見えるが、活気がなくなり、管理部門が異常に強くなってしまった」という。
余談になるが、記者も数年前、広告会社の管理部門が強くなって、以前と体質が変わったことを実体験したことがある。
仕事で関係する企業が、地方としては大きな予算である数億円のキャンペーンを打つことを知って、九州の拠点にいる後輩に、そのクライアントを紹介するので一度連絡してきてくれ、と伝えた。しかし、その後輩が連絡してきたのはそれから2カ月後であった。経理部門にそのクライアントの信用調査を依頼し、ようやくOKがでたので紹介して下さいという、非常にスローでノーテンキな電話だった。その電話があったときには、既にそのクライアントは広告会社を決定して、クリエイティブの作業に入っていた。
さて、一般企業では、上場による資金を新たな工場建設や設備投資、新商品開発などに向けるのが本筋であろう。
しかし広告会社の場合、元々受注型産業であるため大きな投資を行なう必要に迫られず、投資を活かした経営の経験に欠けている。経済界において「上場しておいた方がかっこいい」程度の安易な流れで上場し、それで得た資金の使途も、戦略性に欠けていたのではないだろうか。
【松尾 潤二】
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