実は、この実験では植物の世話を自主的に任されただけではなく、このグループの人々は見たい映画を自分たちの希望する時間に見るために皆で話し合いを持ち、コンセンサスを経た上で観賞する機会を手に入れたのである。もう一方のグループは、看護師たちが決めた時間と場所で映画を見るだけの生活パターンであった。
また、家族や知人が面会に来た際にも、前者のグループはどこで訪問者と会うのか、場所や時間も自らが決めるという自由が与えられた。要は、自分のお気に入りの場所でお気に入りの飲み物やお菓子を食べながら、来訪者との会話を楽しんだのである。一方、後者の人々には、施設が決めた場所で決められた時間しか面会が許されなかったという。
こうした様々な生活の場面において、自らが主体的に判断し選択をしていくという環境に置かれた人々は、結果的に長寿を手にし、生活に自信と喜びを感じるようになったというわけだ。これは何もアメリカの高齢者のみに当てはまることではなく、日本でも十分参考になる実験データと思われる。いくつになっても自らの判断で行動を起こすことが、その人にとっても周りの人々にとっても有意義な時間をもたらしてくれることになるのであろう。
70歳になったから、あるいは80歳を過ぎたからこうでなければならないという、まわりの目や無言の圧力によって、自らの生命力を削り取られてしまっているケースが多々あるのではなかろうか。
現代の医学や科学は大きな原則を明らかにしているに過ぎない。すべての病気やその症状には必ず例外が存在している。すなわち、一見病気に見えても何でもないというケースもあるわけだ。一人ひとりがそうした例外となる心意気とでもいうべき意識の変化を味方につけることができれば、75歳であっても55歳と遜色のない生き方ができるに違いない。
そのことをランガー教授は自らの実験を通じて、内外に強く訴えているのである。同教授は1947年生まれ、現在62歳であるが、たしかに見た目は40代といっても通じるほどの若々しさを保っている。我々も大いにリバース・エイジングの効用を試してみる価値がありそうだ。
【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
国際未来科学研究所代表。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。
ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『たかられる大国・日本』(祥伝社)をはじめ著書多数。最新刊はオバマ新政権の環境エネルギー戦略と日本への影響を分析した『オバマの仮面を剥ぐ』(光文社)。近刊には『食糧争奪戦争』(学研新書)、『石油の支配者』(文春新書)、『ウォーター・マネー:水資源大国・日本の逆襲』(光文社)、『国力会議:保守の底力が日本を一流にする』(祥伝社)、『北京五輪に群がる赤いハゲタカの罠』(祥伝社)、『団塊世代のアンチエイジング:平均寿命150歳時代の到来』(光文社)など。
なお、『大恐慌以後の世界』(光文社)、『通貨バトルロワイアル』(集英社)、『未来ビジネスを読む』(光文社)は韓国、中国でもベストセラーとなった。『ウォーター・マネー:石油から水へ世界覇権戦争』(光文社)は台湾、中国でも注目を集めた。
テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。「サンデー・スクランブル」「スーパーJチャンネル」「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「みのもんたの朝ズバ!」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)「ミヤネ屋」(日本テレビ)など。また、ニッポン放送「テリー伊藤の乗ってけラジオ」、文化放送「竹村健一の世相」や「ラジオパンチ」にも頻繁に登場。山陰放送では毎週、月曜朝9時15分から「浜田和幸の世界情報探検隊」を放送中。
その他、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、エネルギー問題研究会・研究委員、日本バイオベンチャー推進協会理事兼監査役、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、国際情勢研究会座長等を務める。
また、未来研究の第一人者として、政府機関、経済団体、地方公共団体等の長期ビジョン作りにコンサルタントとして関与している。
【最新刊】
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら