人材派遣大手、旧グッドウィル・グループ(GWG、現ラディアホールディングス)の創業者、折口雅博氏(48)と、その資産管理会社の折口総研が9月1日、東京地裁で破産手続き開始決定を受けた。ラディアの100%減資による私的整理が決まり、ラディア株が無価値になるため、債権者から破産を申し立てられた。折口総研がラディアの発行済み株式の7.88%、折口氏個人が0.73%保有していた(09年6月末現在)。負債総額は312億円。これで、折口氏が経営トップに復帰するシナリオは断たれた。さらに事件が足元に迫ってきた。人材派遣最大手・クリスタル(現ラディアホールディングス・プレミア)を買収する際に受け皿となった投資ファンド「コリンシアンパートナーズ」の巨額脱税事件である。
<海外に逃亡>
東京地検特捜部は7月13日、法人税法違反(脱税)容疑で、コリンシアンパートナーズ(07年7月に解散)の元社長で公認会計士の中村(旧姓・中澤)秀夫容疑者(51)(以下、旧姓の中澤を使う)の逮捕状を取った。
中澤会計士は、離婚した元妻の家と養子縁組を結び、姓を「中村」に変えてパスポートを再取得。中部国際空港から香港に出国した後だった。通報を受けた外務省は旅券返納命令を出した。いまだ帰国していない。
<濡れ手に粟の巨利>
脱税事件の構造は単純だ。06年10月、中澤容疑者がGWGの折口会長に対し、人材派遣会社最大手のクリスタルグループの買収を持ちかけた。折口氏は、この話に飛びついた。
ただ、問題が一つだけあった。クリスタルのオーナー・林純一氏が、売却の際につけた条件が「同業者には売らないこと」。GWGは、クリスタルのオーナーに分からないように、2つの投資ファンドを使ってクリスタルを買収した。
買収の受け皿になったのが、「コリンシアン投資事業有限責任組合」。中澤容疑者が設立した投資会社・コシンリアンパートナーズで組成した。同ファンドには、GWGが組成した投資ファンドが883億円(約75%)、「他の投資家」が303億円(約25%)を出資。その資金で、GWGはクリスタル株の67%を取得、買収した。
中澤容疑者が凄腕だったのは、クリスタルのオーナーに支払われたのが500億円だったこと。差額の680億円は「他の投資家」の手に渡った。出資分(303億円)を差し引いた383億円と、残りのクリスタル株(約131億円相当)が転がり込んだ。濡れ手に粟の巨利である。
383億円はどこへ消えたのか。「他の投資家」で山分けした。約180億円とクリスタル株は中澤容疑者のパートナーズ社が受け取り、約200億円はM&Aを仲介したHと、格闘技団体代表のMが分け合った。Hはクリスタルのオーナーを仲介、Mは折口につないだという。折口はM人脈のひとりで、GWGは格闘技団体の協賛企業だ。
彼らが単独で巨額出資をしたわけではない。この投資ファンドに群がった投資家グループがいる。真の出資者は誰か。その実態は、容易には浮かび上がってこない。捜査当局が目をつけたのが、M&Aのスキームを描いた中澤容疑者。「M&Aよる巨額利益を申告しなかった」という脱税摘発を突破口に、カネの流れの総体を押さえることを狙った。
【日下 淳】
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