赤字決算の予兆1
山水建設は創業時の数年の赤字以降40数年にわたり、赤字決算を行なうことはなかった。
しかし、世界の同時不況のため、今期の業績は上がっていない。今期3月の本決算では、辛うじて60億の利益を出すが、大幅な減収減益の予定と新聞発表した。
この数字は事実上の赤字であろう。経理上の操作の範囲内であろう。
坂本は「100年に一度の大不況のせい」として、株主には言い訳ができるかもしれない。
創業社長の山田の時代にも、第一次石油ショック、第二次石油危機もあったが、そのときは「危機を千載一遇のチャンス」ととらえて全社員一丸となり、山田の命令でなく全社員が自発的に、喜んで無理をも厭わず、頑張った。
その結果、大不況下にもかかわらず、従前と変わらぬ利益を計上できたのだ。
このことを現経営陣は、「わが社には誇り高き伝統がある。どんな苦難でも一丸となって乗り切れる」と檄を飛ばしている。
しかしながらこの素晴らしい伝統は、坂本の専制君主のような振る舞いと、その一派によって壊されてしまった。社員の人心は、すでに坂本から離れてしまっていたのだ。
過去の成功は創業者・山田の「経営力、人間的魅力」によってなされたものである。坂本が社長就任して以降大幅な利益を10年近くも続けてこられたのは、単に創業者・山田の作り上げた「強烈な愛社精神」の遺産を食いつくしていただけなのであった。
坂本は、自分の取り巻きだけを優遇する情実人事を行なっていた。さらに、社員に対しては賞与カットなどによって年収を引き下げるようなことをしているにもかかわらず、日本の上場企業の大半がしていたように、役員報酬はこの10年で倍以上に引き上げていた。
まさしく、母屋の女房子供には「家計が苦しいから、辛抱してお茶漬けを食べてくれ」と言いながら、自分は離れで「すきやきを食べている」と揶揄される由縁である。
(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)
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