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山水建設への遺書(14) 赤字決算の予兆―その2/野口孫子 氏
経済小説
2009年9月16日 09:02

赤字決算の予兆2

 創業者・山田が生きていたら、絶対に許さなかったことだろう。
 山田は常日頃から、「わが社には組合はない。労労だ。全員経営者だ」と言っていた。そして幹部会では常に、「部下に威張るなよ!おまえが偉いのではない。偉いのは職責だ。威張っていたら承知せんぞ!」と言っていた。

 「社員には賃金を下げて我慢を強い、役員だけに報酬を上げる」。このような傲慢なことをやることはなかっただろう。
 なぜなら、山田には経営者としての「倫理観」があった。
 山田であれば、社長自ら率先して先頭に立ち、まずは自分の減俸を発表するだろう。そして次に役員の減俸を行なったうえに、危機存亡のおりから最後の手段として、社員に減俸のお願いをすることだろう。
 この山田の姿勢に、社員は奮い立ち、無理がきいたのである。「一丸となって頑張ろう」と燃え上がったのである。

 しかし坂本のやっていることは、自分たち役員は特権階級であり、まずは社員への報酬カット、取引先への無理難題、などによって経費の削減を押し進めるだけである。
 このような専制君主の坂本には社員は「面従腹背」の姿勢をとるしか方法がない。みんな分かっている。しかし、[おかしいではないか]と言えるものではない。
 組織に飲み込まれているのである。「やましき沈黙」である。
 このような社内の空気のなかで、士気が上がろうはずもない。

 斎藤新社長が「今こそ、一丸となり、本来あるべき姿に戻ろう。自由闊達な企業風土を取り戻そう」と訓示しているが、「このよき風土をなくしたのは坂本会長だ」。それを批判もせず「はいはいと聞いていれば、御利益にあずかれる斎藤をはじめとした役員達」にこそ、よくよく言い聞かせねばならねばならないことだろう。

 原点を間違えているのではないのか。

~つづく~

(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)


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