受身の広告産業が腐った人事評価制度でより内向きになり
外に向かって情報発信できない寂しい現状
どうして広告業界の元気がなくなったのか。もちろん、メディアの多様化も大きな要因であるが、記者は90年代より導入された「人事評価制度」にも大きな原因があると考えている。
広告会社の仕事は、他の業種と比べてクライアントごとに対応体制が千差万別であるため、業務をマニュアル化しにくかったり、そこで働く人員の評価基準の設定が難しいのは間違いない。メディア・バイイング主体のクライアントがあれば、クリエイティブ主体のクライアントもあるし、セールス・プロモーションが主体のクライアントもある。
80~90年代、IT化で業務効率をより推進するために入ったコンサルタントが、個々の担当業務の複雑性から、広告会社のシステム構築が非常に難しいと嘆いていたことを思い出す。
昔は人事制度も大雑把で、4月と12月に自己申告書を提出し、上司と1回面談すれば終わっていた。しかし、90年代に人事コンサルティング会社の提案に乗って、複雑なシステムになった。
自分が担当している職務、職責、次の目標設定とこれまでの目標に対する達成度などをこと細かく書かされ、たびたび上司と面談しなければならなくなっていった。
こうした人事評価制度は、一見公平で合理的に思える。しかしこのシステムでは、自分の職務がいかに大きいかをアピールしなければ昇給や賞与の増額が勝ち取れない。それぞれの社員が自分の内側に仕事を抱え込み、チームワークを破壊し、相互の情報交流さえ欠く結果となっている。
さらに、人事記録として残される上司の評価は、以前より大きく影響するので、社員は上司や社内の方ばかり向いて、クライアントを含めた外部との交流が疎かになる。
記者は以前、海外拠点の経営を任され、現地法人の人事評価制度を自分で考えながら作り上げた経験がある。ある年度末、海外拠点長が東京に集まり、新しい人事制度の説明が行なわれた。人事部が説明するのかと思ったら、人事コンサルティング会社の人間がでてきて新制度を説明したのだが、その内容の稚拙さに、出席したどの拠点長もびっくりしていたことを思い出す。
広告会社の本当の内情を理解していない、外部の人事コンサルに制度設計を任せて、社員のモラルを上げることができるのかと疑問を持っていたが、残念ながらその心配は的中したようだ。
さらに、情報セキュリティのために広告会社への出入りが厳しく制限され、同じ業界メディアの営業マンやプロダクションの企画マンでさえ、広告会社の社員と自由に接触できなくなったことも問題だ。
以前は、知り合いのテレビ局やプロダクションの人間が、広告会社の営業の席にふらっと入ってきて、頻繁に情報交換をしていた。一見バカ話ばかりしているように見えても、その自由で頻繁な交流からは、面白い企画が数多く生まれていたことだろう。
内向きで、情報交流の機会を失った広告マンに魅力はなく、それのことはクライアントもすでに見抜いているのではないだろうか。
【松尾 潤二】
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