時間がない。できることは限られている。最良の策が何であるかを思案している時間はなかった。せめて名前だけでも、より多くの人に知ってもらいたい。
自転車だ。以前、河村たかし名古屋市長が応援にきてくれたとき、自転車で演説してまわった。河村氏は、自転車行脚で当選したと思っていた。若さをアピールし、知名度を高める。自転車での演説はうってつけの作戦だった。
事務所には、河村氏来援の際に用意した自転車が3台あった。これでは足りない。事務所スタッフの友人知人にまで頼み込み、集められるだけの自転車を集めた。およそ20台の自転車が集まった。そして、フロントには民主党のポスターを貼り、リアにはノボリを立てられるように1台ずつ自転車を改造した。
加えて、運がいいことに、以前楠田氏の秘書を務めていたB氏もボランティアスタッフとして事務所に顔を出すようになっていた。このB氏、とにかく元気がよい。周囲の空気などをガラッと変えてくれる力に満ちているのだ。B氏が事務所に来たことで、船頭不在だったボランティアスタッフがまとめあげられていった。このB氏が、率先して自転車に乗ってくれた。そして、20代の若者スタッフを中心に組まれた3~5名程度のチームを鼓舞する役割をB氏が担ってくれたのだ。
真夏の日差しのなか、1日自転車に乗る。それだけでもとてつもない労力であるのに、辻々で声を張り上げて、アピールしなくてはならないのだ。
自転車による演説は、一見簡単なことに聞こえるかもしれないが、とても疲れる、気が滅入るような試練の行脚なのである。そんなに辛いのなら、街宣車で回ればいい、そのやり方ならより広い範囲をカバーできるではないか。そうおっしゃる方もいるかもしれない。確かに、街宣車なら広い範囲をカバーできるし、疲労も少ない。
けれども、街宣車は法定スピードで道路を走らねばならず、単一地域で届く声の長さは短くなってしまうのだ。よしんば声が届いたとしても、他候補も同様に街宣車による活動を行なっているので、違いが分かりにくい。その点、自転車は自動車に比してゆっくり走るので、目に付きやすく、人が見えることで親しみも湧きやすい。自転車行脚は、過酷ではあるが効果的な作戦だった。
【柳 茂嘉】
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