総決起集会会場はおよそ1,000人入れるにもかかわらず、立ち見まで出る大盛況を呈していた。支援者たちは今回の選挙にかける熱意、当選への期待で、少し上気したような表情を見せていた。
いよいよ開演の時間となる。応援してくれている政治家や、後援会の幹部が続く。そして大声援のなか、楠田大蔵氏による決意表明が行なわれた。
第一声、何が語られるのか、聴衆は息を飲んで耳を立てる。
「えぇ、気付いた方もいらっしゃるかも知れませんが、シャツのボタンを掛け違えてしまいました。妻がいれば、こんなことにならなかったんですが。この選挙が終わったら、次は皆様に妻を紹介したいと思います」
つぶやくように楠田候補はボタンを直しながら言った。
第一声がこれか? 一瞬、間があり、その後大きな笑いが会場を包んだ。聴衆の緊張は一気に弛緩し、やわらかくなった空気のなか、楠田氏の演説は続けられた。
自分が国政でやりたいこと、自分の夢、今の現状を憂いていること、政権交代の意義などなど、熱のこもった演説が続いた。最初の小声とはうってかわって、最後にはスピーカーの音が割れるくらいの大きな声になっていた。
楠田候補、精一杯の演説だった。本気の熱意が伝わってくる。会場全体がその熱意に同調するかのごとく熱くなっていた。
候補の演説の後、会場のヒートアップが、事務局長を務める原竹岩海県議によるガンバロウ三唱の音頭でさらに加速する。
「一票差で(もいいから)勝たせてください」
叫ぶような声が聴衆の胸を打つ。もはや、何を語ったかなど、どうでもよくなっていた。とにかく勝つ。そのことだけが、会場全体の統一された意思となっていたのだ。事務所の若手スタッフが舞台に呼ばれ、会場にいるすべての人がガンバロウと叫び、熱狂のなか、総決起集会は幕を閉じた。
まるで台風のような集会だった。この集会が始まるまで、ついさっきまで、勝ちなどを予期させる要素はなかった。ところが、今はまったく負ける気がしない。勝てる。自分らのやっていることは間違っていない。事務所スタッフ一同、初めて当選という二文字がはっきりと見えた瞬間だった。
【柳 茂嘉】
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