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山水建設への遺書(17)  社長の品格―その2/野口孫子 氏
経済小説
2009年9月24日 08:00

社長の品格2

 坂本の社長就任以降(それでも中井元会長在任中は少しはブレーキになっていたのだが、中井退任後は本性を現し)、やりたい放題の状況になっていた。
 心ある社員の心は傷つき、夢をなくしていった。山水建設のよき伝統(みんな互いを思いやる、和気あいあい、家族的情愛、いざという時は一致団結する)は壊れていった。
 この伝統が山水建設の底力の源であったのに、だ。

 坂本は多くの独裁国家(北朝鮮、中南米、アフリカ)に見られるような、反体制派に対する粛清(報復人事、左遷)を行なっていった。たとえば、北朝鮮の金正日総書記が登場すると、その場の全員立ち上がって拍手するという異様な光景がみられるが、坂本のまわりも茶坊主で固められ、まさしくこの状況を呈していた。「坂本が白と言えば、黒でも白」と言わざるを得ない雰囲気で、誰もこの流れに逆らうものはいなくなっていた。坂本はオーナー社長でもない、サラリーマン社長である。昨日までは先輩、同僚の関係で、「オイ」、「お前」の仲間がいるにも関らずである。

 この恐怖による経営姿勢により、社員の気持ちは一気に離反していった。
 「高い志」もない坂本を社長にしたという不幸を背負ってしまった山水建設。今さら、今は亡き前会長の中井に責任転嫁することもできない。

 社長というものは、次の後継者の選任が大きな仕事である。社長というものは、自分の名誉欲や金銭欲など、身近な自分本位のものであってはならない。「高い志」を持ち「高い教養」を持った、倫理観、正義感のある人を選任すべきなのである。

 中井は完全にミスを犯してしまった。選んではならない最悪の人物、正義感も倫理観を持たない坂本を選任してしまったのである。これには中井も後で気がつくのだが、時はすでに遅かった。
 大した教養もなく金銭欲と名誉欲に強い坂本は、大局観がないのはもちろん、社員のために命をかける気概すらあろうはずもなかった。

~つづく~

(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)


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