日系企業視察
この日最後の視察箇所となったのは、寧波に進出している日系企業だった。
我々が訪れたのは、名古屋に本社を置く(株)生方製作所が、中国横店集団建設有限公司との合弁により設立した、「寧波生方横店電器有限公司」。エアコン用のインターナルプロテクターを製作している会社で、この分野では世界シェアの約4割を有しているという。
今回の視察にあたって我々の対応をしていただいたのは、総経理と副総経理のお二方。総経理とは「会社の代表」という意味を表す肩書で、日本でいえば「社長」にあたる。お2人とも日本人で、社内における日本人スタッフはこの2人だけだという。
ここでは、中国国内の日系企業の概況や日本企業が中国に進出するメリット・デメリットなどのさまざまなお話が聞けたほか、工場内の見学をさせていただいた。工場内は清潔そのものの非常に管理が行き届いた効率的な空間となっていて、若い女性工員が黙々と作業にあたっていた。同社の従業員における女性の比率は約8割だそうで、女性の方がこういった細かな部品の繊細な作業に向いているという。
この後我々は、ちょうど時間がすでに夕時ということもあり、お二方を交えて夕食会を催すことになった。場所を寧波市街地の中華料理店に移し、しばし歓談のときを過ごす。ここでは、先ほどお聞きしたお話以外に、中国での生活についてや妻子を日本に残してきていること、日本に帰れるのは数カ月に1度など、より日常・個人的な観点からのお話もたくさん聞くことができた。ツアー参加者も、相手が同じ日本人ということですぐに打ち解け、夕食会はとても楽しいものとなった。
視察・会食を終えてホテルに戻る途中、バスのなかが少し騒がしくなった。皆、バスの窓から夜空を見上げ、口々に見えている光景についての疑問を投げかける。
「あれは何だろう!?」
「空で何か光っている!」
「飛行機? それにしては、動かずにジッと停まっている...」
「光が十字形に並んでいるみたいだ」
「もしかして、UFO!!?」
皆、口々にその奇妙な飛行物体について、それぞれの考えを述べている。私もバスの窓に張り付いて観察したが、確かに妙な光景だった。白色と緑色とが数個並んだ発光体が、夜空に浮かんでいる。しかもそれが数体、十字形に並んでいるのだ。最初は飛行機かとも思ったが、その発光体が移動している気配はない。
本当にUFOが襲来したところに、我々は遭遇してしまったのかもしれない...。
しかし、それにしては街中の反応が薄い。バス中で我々が騒いでいるだけで、街中を歩いている人々は空の異変に全く気に留めていない。平然としている。もしかして、気づいていないだけなのだろうか...。
と、ここで現地ガイドからの種明かしというか、解説が入った。
「あれは、中秋節のお祭りのために揚げられている『凧』です」
...なるほど、あれが凧であれば、確かに飛行機のように移動することはないし、ずっと空中に留まっているのも理解できる。さらに、十字形に並べることも容易だろう。街中の人々の反応が薄いのも、お祭りで揚げられているのであればもはや慣れているのであろう。凧にしてはやたら高々度を飛んでいる気もするが、そこは中国の技術力恐るべし、といったところだろうか。
種明かしがされてしまえば何てことはなかったが、ちょっとドキリとした出来事だった。
【坂田】
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