「若い力で戦っております。このスタッフたちは、自転車で選挙区を回ってくれています。この力で政権交代しようではありませんか」
浅黒く焼けた顔で、楠田候補が力強く演説をする。聴衆などいない。道行く人、車で移動中の人に知ってもらうため、より深く知ってもらうために声を出しているのだ。
この日1日だけで、もう何カ所回り、何キロ走っただろうか。真夏のギラギラした日差しをものともせず、自転車部隊が選挙区を駆け抜ける。街宣車は声を張り上げる。バンには交代要員が乗っていた。けれども、誰も交代を願い出ない。
「最後までやりきりたい。ギブアップしたくないんです」
こう力強く語ったのは、女性大学生のボランティアスタッフだ。女性でさえこの積極性、男性のモチベーションは言うまでもない。まさに全力投球だ。この行為がどれだけの効果を生むのかは誰にも分からない。ひょっとしたら、もっといい方法があるのかもしれない。けれども愚直に、ただひたすら愚直に自転車をこいで声を出す。愚痴のひとつもこぼさない。ボランティアたちに見返りがあるわけではない。互いの頑張る姿に奮起して、すべてのスタッフが限界以上の力を出しているのだ。
最後の演説の地、西鉄二日市駅前西側に到着した。実は、ここは本来、最終演説予定地ではなかった。本来は那珂川で終了の予定だったのだが、モチベーションが上がったスタッフたちが「まだできる。もっとやろう」と提案し、さらに2カ所で演説を行なうことにしたのだ。その結果が、西鉄二日市駅なのだった。
何かを暗示するように、同時刻に自民党・原田陣営が駅西口に陣を張っていた。
最後の最後。日は暮れて候補の顔もよく見えない状態ながら、最後の演説が行なわれた。何が楠田候補の口から語られたのかは分からない。分からないが、何かが喉のあたりにこみ上げてきた。
やりきった。スタッフ一同、同じ思いだった。街宣部隊、自転車部隊ともに事務所に戻ると、支援者が事務所前で出迎える。用意されたひな壇の上で、楠田候補がお礼の言葉を述べる。事務所裏のマンションからも、多くの人が手を振り応援をしてくれていた。できることはやった。あとは勝つだけ。それしか残されていなかった。
【柳 茂嘉】
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