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山水建設への遺書(18)  社長の品格―その3/野口孫子 氏
経済小説
2009年9月25日 08:00

社長の品格3

 社員を大事に思い会社の経営に生命をかけるような社長であれば、そこに「賄賂」などという話はまさか聞かれようはずもないものだ。
 しかし、坂本の場合は、「納入業者から『賄賂』を貰っている」というような坂本の前任地からの黒い噂が、社長就任前より盛んに飛び交っていた。
 「しょせん噂で、確たる証拠もない」と、前会長の中井は坂本を次期社長に指名してはみたものの、噂の真相を危惧しながら忸怩たるものを心のなかに残していた。
 結局、噂に関しての確証もとれないまま、しかたなく「わしの目の黒いうちは悪いことはさせない」と見栄を切り、坂本に社長職を禅譲するはめになったのである。

 社長というのは、「高い志と倫理観」という資質を持ち合わせていなければならない。金銭欲・名誉欲・権力欲の強い坂本を選任してしまった中井は、大きな間違いを犯したのだ。

 山水建設の不幸の始まり、栄光の挫折の始まりであった。

 坂本の社長就任後、心配していたことが現実のものとなっていったのである。
 中井が「目の黒いうちは」と豪語するも、1年もたたないうちに中井のコントロールは効かなくなっていった。件の豪語は、有名無実の状況に陥っていた。
 それどころか逆に、坂本は中井を追い落とす動きを加速させていたのである。

 権力欲の強い坂本にとって、エリート社長として王道を歩んでいた中井会長は煙たい存在だった。そこで坂本は、中井を辞任に追い込むことに執着していく。しかも、坂本にとってそれは、さほど難しいことでもなかった。
 人事権を持った社長である坂本は、着々と息のかかった部下を役員に登用。社長就任2年後には、すでに役員会で主導権を握れるまでに勢力を伸ばしていたからだ。

 役員・本部長・部長を一本釣りしながら、自分に忠誠を誓わせていった。忠誠を誓った役員に対しては見返りとして、平取りから役付きに、幹部は役員に登用した。ただし、自分に忠誠を誓わない役員に対しては報復として、役員改選時に再任をせず、その他の幹部は左遷させた。
 このやり方こそ、坂本の本領発揮である。
 品格のない、自分の権力保持のためだけの、がむしゃらでなりふり構わないやり方だった。

~つづく~

(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)


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