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山水建設への遺書(19)  社長の品格―その4/野口孫子 氏
経済小説
2009年9月28日 08:37

社長の品格4

 創業社長の山田が余りにも素晴らしい経営者だったため、坂本、斎藤と比較するのは少々酷かもしれない。
 しかし、両人とも、山田の薫陶を得て、新入社員時代から育ってきたはずである。特に坂本は同期のトップを切って山田に抜擢され、取締役に登用されるなど、山田の影響は多く受けていたはずである。

 あの大芝を再建させ、国鉄の民営化のため政府臨調の委員長として活躍された大企業の社長の土光さんも、朝ごはんはメザシだけという清貧な暮らしぶりで、「メザシの土光さん」と言われていた。
 山田も、名経営者と言われていた土光さんに負けず劣らずの清貧な暮らしぶりだった。自分の持論の通り、決して偉ぶらず、ざっくばらんであった。全国各地へ視察の時も、風呂敷一つで秘書もつけずに一人で出かけていった。建築現場の工事店の親方たちとも膝を突き合わせて飲み交わし、山水建設の一員として丁寧に寓していた。
 この山田の分け隔てない姿に接した親方たちはたちまち山田のファンになり、山水建設のために「がんばるぞ、やるぞ」、と言わしめたのである。山田の社長としてより、「人間としての懐の深さ、仁愛、倫理観」、「品格の高さ」に惚れてしまったのである。山田は、社員はもちろんのこと工事現場の親方や職人までをも一致団結させ、どんな危機であろうと突破できたのである。

 坂本は、山田のそのような姿は第一線の幹部時代に見ているはずである。しかしながら、坂本は強い自己顕示欲のため、山田を讃える事は決してしなかった。山田は山水建設をゼロ(実質は赤字)から1兆円企業まで育て上げた大功労者であるにも関わらずである。
 オーナー社長とサラリーマン社長の違いはあっても、松村電器の松村さんを歴代社長が「経営の神様」と讃えているのとは大違いである。坂本は誇るべき名経営者山田に礼を尽くすことも、新たに入社してくる社員に山田の功績を伝えていくこともしなかったのである。

~つづく~

(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)


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