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山水建設への遺書(20)  社長の品格―その5/野口孫子 氏
経済小説
2009年9月29日 08:00

社長の品格5

  坂本は山田の功績を讃えることはせず、さも自分が今の一流企業の地位を築いたかのごとく振る舞っている。

 企業のトップ・君子たる人間は、拝金主義に陥ったり、人間として最低限の「道」を踏み外したりしてはならないものである。
 社長、君子の条件として、「1:仁徳があること」、「2:私の利より義を大切にすること」、「3:自分より他者を思いやること」が挙げられる。
 しかし、この条件は山田にはすべての項目で当てはまるが、坂本にはどれ一つとして当てはまらないと言わざるを得ない。

 昨今、仁・義の徳目を踏み外している社長を頂く企業が問題を起こし、企業の存続をも危ぶまれる事態にもなっている。社長が権威主義、拝金主義に走れば、もはや企業は正常に機能していないと言わざるを得ない。人心は荒廃し、目先の効いた「ごますり」が跋扈する組織になり、衰退の一途をたどるのである。

 山田が実践したように、論語で言う「利を見ては義を思う」のようでなくてはならない。道義を重んじる心を持ち、他者、社員たちを思いやる心を持たねばならない。人は利を目の前にすると、私利私欲が勝ち、その利が正しいかの判断を狂わせる。その時、踏みとどまり、その利が義にかなったものかを考えることが、大事なのである。
 ところが、消費期限を改ざんしたり、食べ残しを使いまわしたりなどの不祥事は、利ばかりを追求し、その利が正しいかの判断をする義を忘れている証である。

 坂本にも、拝金主義のレッテルが張られている。私利私欲が強くて我が身には甘く、合理化や報酬カットは真っ先に社員に押し付けていた。

 「経営の神様」とも称される、松村電器の松村さんが言った言葉に、「人間が軽視されるような組織はいけません。人間が主座、中心でなくてはならない」というものがある。
 この思想は、山田の制定した企業理念「人類愛」とベースを同じくするものである。

~つづく~

(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)


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