かつては市場に上場するということが、企業としてのステータスであり、目標でもあった。しかし、時代や情勢の変化とともに、企業の上場に対する見方も変わりつつある。また、破綻した企業の再生支援のあり方も、時代とともに変わってきている。今回、上場するということの意義と、破綻した企業の再生支援のあり方について、昨年11月に破綻した(株)ディックスクロキの元社長で現Dipro(株)代表取締役の黒木透氏と、さまざまな企業の再生に携わってきたCRC 企業再建・承継コンサルタント協同組合代表理事の真部敏巳氏を交えて、座談会を行なった。
■上場することの意義とは何か
上場のメリット
デメリット
—最初のテーマは、「上場することの意義」です。昨今、新興市場の規制が厳しくなったり、経済環境が変わって株価が下がったりなどといろいろありまして、若い世代の経営者になるととくにそうですが、上場を目指す会社というのが非常に少なくなってきています。まず黒木社長に、実際に上場をされてのメリットについておうかがいしたいのですが。
黒木 まずは、資金調達の面があります。上場して株を公開して売り出すことで、資金面は随分得やすくなりましたね。それと、広報面ですね。上場後に取材が多くなって、それに対しての広告・広報活動はとても楽になりました。上場したおかげで知名度は高くなった気がしますね。
石崎 良い人材が集まりやすいとか、そういう面も大きいのではないですか。
黒木 そうですね。しかし、人に関して言えば、上場に向けて、社員全体がレベルアップしていきますから、実は上場前に人材はできあがってしまっているのです。ですから、上場してからということよりも、直前までの人材育成の面が大きいですね。
—では、一番大変だった部分は。
黒木 やはり四半期開示ですね。それと、引き渡しの原則論が厳しくなります。引き渡しとは何か、というところから変わってきますから。今までだと、物引き渡しでお金は来月、ということもあったのですが、物と同時に引き渡しをしなくてはならなくなります。
石崎 四半期開示で、例えば不動産業者の場合だと、同業者の動きがあるから仕込んだ土地を隠匿しておきたいと思っても、そういったことはできなくなりますよね。
黒木 上場企業ではできないですね。やはり上場すると、目標に対しての取材攻勢、IR、そういったものが出てきますから。
それと、売上か利益かというところで、売上だけ上がってもいけませんし、利益だけ上がってもいけません。大規模になるための試練ですから、売上も利益も双方とも伸びなくてはいけないのです。そうして増収増益でないと、投資家に見放されてしまいます。そのために、無理して仕入れることなども多少あります。
真部 それと、上場維持のためのコストがかなりかかりますからね。ISOを取得したり、その他いろんな諸経費が必要となります。ですから、上場した方がいいのか、非上場のままでコストを抑えた方がいいのか、その選択が今とても厳しくなってきたのではないでしょうか。
浜崎 メリットの話でいえば、上場すれば個人保証しなくていい、というのがありますよね。このへんがやはり、経営者の一つの夢ではないでしょうか。
黒木 それはメリットとしてありますね。だから無理ができる、というような部分もあります。
浜崎 また、そうなると今度は、甘くなるという部分も出てくるのではないかと思いますが。
黒木 それを言えば、大会社の社長でも、何かあったときに全部責任を取るのか、ということになりますよね。大手の社長でもそうですし、上場企業に課せられた責任というのは、あくまでも取締役会とか株主責任とか、いろんな要素が絡んできますから。社員や保証人の責任というのは、ないですね。
浜崎 経営責任の問題でいうと、事業で少々赤字が出ようが何をしようが、その時の判断が正しかったということであれば、よほどのことがない限り会社訴訟でやられるということはありませんね。
黒木 それはないですね。私の場合も、基本的には前期まで黒字でやっていますし。おまけに、きちんと取締役会の承認を得てからやっています。粉飾をしたわけでもありませんし、銀行に嘘を言って融資を引き出しているわけでもありません。当然、銀行も賛成して、取締役会で承認を得ているわけですから。
【文・構成:坂田 憲治】
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