世界の未来を創造する研究に資金を惜しまぬ組織としては、アメリカの国防総省国防先端技術開発局(DARPA)に勝る組織はないだろう。DARPAは常に20年から50年先の世界を見据え、未来社会にとって最も強力な武器となる新技術の開発に潤沢な資金を提供している。例えば1960年代の初頭、まだコンピュータ・サイエンスが学問分野としても誕生していないときに、将来のコンピュータ社会を具体化するビジョンの下、新たなコンピュータのネットワーク社会を描いていた。
当時、DARPAの前身組織であるコマンド・アンド・コントロール・リサーチ部門の責任者であったリックリダー氏は全米の大学や研究機関、政府の主要部門を結ぶ「アルパネット」と名づけたコンピュータのネットワーム網を立ち上げる準備に着手。60年代の後半になると、DARPAの資金供用を受けた企業や大学の研究者たちがこぞって、アメリカが冷戦時代を勝ち抜くために、旧ソ連からの核攻撃を受けたのちにも反撃のできる通信指令システムを構築する目的で、コンピュータのネットワークを拡大することに必死に取り組み始めたものである。
その結果が、今日我々がインターネットとして、ビジネスにおいても日常生活においても欠かせない情報ネットワークとして日々利用しているもの。元々は東西冷戦時代の軍事戦略に欠かせないとの観点から開発が進んだ技術であるが、今では世界のビジネスにとってなくてはならない通信情報インフラとなっている。
そのDARPAが、今最も力を入れて研究開発資金を投入している分野が、「進化した人間を創造する」という分野である。これも元来の発想は、過酷な戦場で戦う軍人たちが肉体的にも心理的にも、また状況判断能力においても、敵を圧倒する優位性を確保できるようにしようとしたもので、未来の戦闘員を生み出すための研究開発に他ならない。
国防省の下部組織に国防科学研究事務所(ディフェンス・サイエンスィズ・オフィス)という組織がある。このオフィスでも夢を現実のものにするために、常識を飛びぬけた大胆な発想で研究が進められている。将来の戦争や戦場を想定し、負傷した兵士が現場で失った人体や臓器を簡単に補充できるような人体再生技術の研究を進められているのである。
DARPAの年間予算は、アメリカ科学財団の予算より30億ドル少ないという。また国立衛生研究所の予算と比べても、はるかに少ないとしか公にされていない。しかし、DARPAがバイオ革命という研究開発プログラムに投入している国家予算は全米各地の大学や研究機関に分散投資されているため、その全体像が把握されていないだけで、相当な金額に達するはずだ。アメリカが未来社会においても圧倒的な優位性を保つための研究であるため、資金を惜しまぬという体制が確立しているのである。
【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
国際未来科学研究所代表。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。
ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『たかられる大国・日本』(祥伝社)をはじめ著書多数。最新刊はオバマ新政権の環境エネルギー戦略と日本への影響を分析した『オバマの仮面を剥ぐ』(光文社)。近刊には『食糧争奪戦争』(学研新書)、『石油の支配者』(文春新書)、『ウォーター・マネー:水資源大国・日本の逆襲』(光文社)、『国力会議:保守の底力が日本を一流にする』(祥伝社)、『北京五輪に群がる赤いハゲタカの罠』(祥伝社)、『団塊世代のアンチエイジング:平均寿命150歳時代の到来』(光文社)など。
なお、『大恐慌以後の世界』(光文社)、『通貨バトルロワイアル』(集英社)、『未来ビジネスを読む』(光文社)は韓国、中国でもベストセラーとなった。『ウォーター・マネー:石油から水へ世界覇権戦争』(光文社)は台湾、中国でも注目を集めた。
テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。「サンデー・スクランブル」「スーパーJチャンネル」「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「みのもんたの朝ズバ!」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)「ミヤネ屋」(日本テレビ)など。また、ニッポン放送「テリー伊藤の乗ってけラジオ」、文化放送「竹村健一の世相」や「ラジオパンチ」にも頻繁に登場。山陰放送では毎週、月曜朝9時15分から「浜田和幸の世界情報探検隊」を放送中。
その他、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、エネルギー問題研究会・研究委員、日本バイオベンチャー推進協会理事兼監査役、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、国際情勢研究会座長等を務める。
また、未来研究の第一人者として、政府機関、経済団体、地方公共団体等の長期ビジョン作りにコンサルタントとして関与している。
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