DARPAは、「想像を絶するような、どう考えても夢としか思えないような技術の開発にこそ積極的に取り組む」というモットーを掲げている。不可能と皆が思うような技術開発こそ、アメリカ国防総省の科学頭脳を結集した組織が自らの戦場として捕らえているわけだ。
インターネットの開発を成功させた勢いを駆って、DARPAでは無人偵察機「プレディター」を開発した。2002年、イエメンにおいてテロ集団アルカイダのリーダーたちがヘルファイヤー・ミサイルによって殺害されたが、彼らの動きを空中から無人偵察機でモニターし、ピンポイントで破壊する。そのような偵察衛星や精密誘導ミサイルの開発は、DARPAのお手のものである。
正確な全体予算は公表されていないが、DARPAはその莫大な予算の90%近くを連邦政府機関以外の大学や民間企業に先行投資という形で資金供与している。これまでにもDARPAの資金提供によって、アメリカのIT業界は世界のスタンダードを獲得することができ、優位なビジネスを展開してきた。例えば、サン・マイクロシステムズ、シリコン・グラフィックス、そしてシスコ・システムズなど、いずれもDARPAの資金を基にして事業を成功させてきたといっても過言ではない。
また、インターネットの創設に深く関わってきた背景もあり、UNIXやTCP/IPプロトコルの普及にもDARPAは大きな役割を果たしてきた。そもそもDARPAは、ソ連によるスプートニク打ち上げ成功による宇宙戦争における立ち遅れを挽回する目的で、アイゼンハワー大統領の肝いりで誕生した軍事技術研究機関。NASA(航空宇宙開発局)も、実はDARPAから枝分かれした弟組織のようなものである。
このような背景を持つ軍事相撲の中枢組織ともいえるDARPAが、現在「新たな人類を創造する」という分野に本格的に取り組み始めたことは、まだ世界ではほとんど知られていない。その背景には、アフガニスタンやイラクの戦場で多数の米軍兵士が命を落とし、また身体障害者となって本国へ送り返されている悲惨な現実がある。DARPAとすれば、戦場で戦う兵士たちの苦痛や傷をいかにすばやく修復し、常に戦い続けることができる兵士を生みだすかが大きな課題となっているわけだ。
【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
国際未来科学研究所代表。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。
ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『たかられる大国・日本』(祥伝社)をはじめ著書多数。最新刊はオバマ新政権の環境エネルギー戦略と日本への影響を分析した『オバマの仮面を剥ぐ』(光文社)。近刊には『食糧争奪戦争』(学研新書)、『石油の支配者』(文春新書)、『ウォーター・マネー:水資源大国・日本の逆襲』(光文社)、『国力会議:保守の底力が日本を一流にする』(祥伝社)、『北京五輪に群がる赤いハゲタカの罠』(祥伝社)、『団塊世代のアンチエイジング:平均寿命150歳時代の到来』(光文社)など。
なお、『大恐慌以後の世界』(光文社)、『通貨バトルロワイアル』(集英社)、『未来ビジネスを読む』(光文社)は韓国、中国でもベストセラーとなった。『ウォーター・マネー:石油から水へ世界覇権戦争』(光文社)は台湾、中国でも注目を集めた。
テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。「サンデー・スクランブル」「スーパーJチャンネル」「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「みのもんたの朝ズバ!」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)「ミヤネ屋」(日本テレビ)など。また、ニッポン放送「テリー伊藤の乗ってけラジオ」、文化放送「竹村健一の世相」や「ラジオパンチ」にも頻繁に登場。山陰放送では毎週、月曜朝9時15分から「浜田和幸の世界情報探検隊」を放送中。
その他、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、エネルギー問題研究会・研究委員、日本バイオベンチャー推進協会理事兼監査役、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、国際情勢研究会座長等を務める。
また、未来研究の第一人者として、政府機関、経済団体、地方公共団体等の長期ビジョン作りにコンサルタントとして関与している。
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