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特別取材

アメリカ国防総省が進めるアンチエイジング研究(3)
特別取材
2009年9月26日 08:00
国際未来科学研究所代表 浜田和幸

 カルフォルニア州にリナット・ニューロサイエンス社というバイオ関連会社がある。このシリコンバレーの会社に対して、海軍出身のDARPAのカート・ヘンリー司令官は、痛みを瞬時にして感じさせなくする痛み止めワクチンの開発資金の提供を決めた。目標は「ワクチン服用後、10秒以内にあらゆる激痛が雲散霧消する」こと。その効果は少なくとも30日は続くことが要求されている。しかも、副作用が生じないことが条件だ。

 そのような条件を満たす、新たな「夢のワクチン」を開発しようというのである。すでにこの研究開発は相当進んでおり、動物実験も繰り返し行われているという。ちなみに、このリナット社は、世界で最初に誕生したバイオテック企業であるジェネンテック社からスピンオフした会社である。

 この痛み止めワクチンは兵士にとって、戦場で敵の銃弾を身に受けた場合や、地雷を踏んだ際には、痛みを感じさせなくしてくれるわけで、革命的なワクチンとなるに違いない。そして民間市場でも、その応用範囲は数限りないと思われる。特に末期がんの患者にとっては、治療等の苦痛から解放されることを意味する。

 また、ウィスコンシン大学医学部のハリー・ウィーラン教授は、視力を失ったネズミに視力を回復させる研究開発で知られる。この技術を戦場に応用するため、DARPAではウィーラン教授に委託をして、戦闘機や爆撃機のパイロットが長時間任務についても視力が落ちない、そして目が疲れないような技術を開発させようとしている。またミサイル爆弾を投下した際に発生する閃光や炎による、パイロットの目へのダメージを軽減させる研究開発も委託しているのである。

 ネズミを使った実験では、およそ5時間から24時間以内に視力が回復することが確認されているが、これではパイロットの安全な操縦を確保することはできない。そのため、数秒以内に視力を回復させるべく研究や実験が現在進められている。既に相当レベルまで進んでおり、動物実験もサルを使って行われる段階まできているようだ。

 更に、視力を回復させるのみならず、皮膚や骨、神経などあらゆる人体機能を4日以内に元通りに修復させることも研究課題として与えられているという。同時にウィーラン教授は、パーキンソン病や脳腫瘍、そして骨髄の損傷等に効果的な治療法の開発も請け負っている。

 要するに、細胞や臓器の再生機能を、いかに確実に、かつすばやく達成することができるか、最先端の研究を戦場に応用しようとしているわけだ。映画「スター・トレック」の中では、主人公たちがフィジオ・スティミュレーターと呼ばれる機械を使い、損傷した皮膚や臓器をたちどころに元に戻してしまう。まさにそのような夢の治療兵器の開発に取り組んでいるのである。

 これこそ海軍の特殊部隊「シールズ」の戦闘員たちにとっては、1日も早く実用化してほしい装置と言われている。これも戦場での使用だけではなく、交通事故や自然災害での人体損傷に対して、その場で機能回復や治療が可能になるわけで、民生部門での応用範囲も極めて広いものと期待が高まる。

(つづく)

【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
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 国際未来科学研究所代表。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。

 ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『たかられる大国・日本』(祥伝社)をはじめ著書多数。最新刊はオバマ新政権の環境エネルギー戦略と日本への影響を分析した『オバマの仮面を剥ぐ』(光文社)。近刊には『食糧争奪戦争』(学研新書)、『石油の支配者』(文春新書)、『ウォーター・マネー:水資源大国・日本の逆襲』(光文社)、『国力会議:保守の底力が日本を一流にする』(祥伝社)、『北京五輪に群がる赤いハゲタカの罠』(祥伝社)、『団塊世代のアンチエイジング:平均寿命150歳時代の到来』(光文社)など。
 なお、『大恐慌以後の世界』(光文社)、『通貨バトルロワイアル』(集英社)、『未来ビジネスを読む』(光文社)は韓国、中国でもベストセラーとなった。『ウォーター・マネー:石油から水へ世界覇権戦争』(光文社)は台湾、中国でも注目を集めた。
 テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。「サンデー・スクランブル」「スーパーJチャンネル」「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「みのもんたの朝ズバ!」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)「ミヤネ屋」(日本テレビ)など。また、ニッポン放送「テリー伊藤の乗ってけラジオ」、文化放送「竹村健一の世相」や「ラジオパンチ」にも頻繁に登場。山陰放送では毎週、月曜朝9時15分から「浜田和幸の世界情報探検隊」を放送中。
 その他、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、エネルギー問題研究会・研究委員、日本バイオベンチャー推進協会理事兼監査役、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、国際情勢研究会座長等を務める。
 また、未来研究の第一人者として、政府機関、経済団体、地方公共団体等の長期ビジョン作りにコンサルタントとして関与している。

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