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特別取材

アメリカ国防総省が進めるアンチエイジング研究(5) 
特別取材
2009年9月29日 08:00
国際未来科学研究所代表 浜田和幸

 現在や近未来の戦争は、コンピュータを使った情報心理戦の側面が強くなると言われている。戦場の現場でも、24時間常に神経を覚醒させていなければ、敵との戦いに勝てない。そのため、人間の脳の一部だけを睡眠させ、他の部分は常に警戒態勢にあるような、いわば睡眠を必要としない兵士をいかにして生み出すかが、緊急の課題になっているという。

 要は睡眠中といえども、精神・肉体ともに戦える状況下に兵士をスタンバイさせることが可能かどうか。この技術をアメリカが世界に先駆けて開発することに成功すれば、戦争のあり方、特に最前線の兵士の戦い方が今日とは大きく様変わりしたものになるに違いない。1日24時間、週7日間、一睡もしなくとも戦い続けることのできる兵士が、まもなく誕生しようとしているのである。

 この「睡眠不要剤」の開発は、同じくシリコンバレーにあるセンタウル・ファーマシューティカルズと呼ばれる、心臓発作の治療薬を開発販売している会社で既に実験段階に入っている。ということは、ここ数年以内に実用化が十分可能となっているわけである。
通常我々は、一晩の徹夜でも次の日には神経が相当参ってしまう。ましてや2日、3日と徹夜を続ければ、まともな判断力は失われてしまうだろう。しかし、戦争という極限状態で判断力を失わず戦い続けるという厳しい使命を帯びている兵士たちにとっては、このような睡眠不要剤は願ってもない味方となる。

 もちろん、このような睡眠不要剤が一般のマーケットに出回ることも、近い将来ありうるに違いない。いずれの人体機能強化薬も戦争やビジネスの現場で我々の能力をこれまで以上に飛躍的に高めることにはなる。だが将来的に何らかの副作用が発生しないのかどうか。大いに気になる点である。開発担当者は「そのための対策も講じられている」とは言うものの、どこまで安全かと言われれば、現在では確たる保証は得られていない。

 また、DARPAでは兵士たちが空腹や疲労、恐怖心などを克服するための薬の開発にも取り組んでいる。このプログラムは「メタボリカリー・ドミナント・ソルジャー」と呼ばれている。開発責任者のジョー・ビーリッツィー氏は、半分冗談を交えながら「我々が現在取り組んでいるのは、あの映画「スパイダーマン」の主人公を作ろうということだよ」と楽しげに言う。

 人間のあらゆる細胞をコントロールすることにより、兵士たちのメタボリズムをオリンピックのメダリストのレベルまで引き上げようというわけだ。人間の身体は60兆個といわれる膨大な数の細胞から成り立っているが、元をたどればひとつひとつの細胞は極めて小さなものである。このひとつひとつの細胞のメタボリズムを飛躍的に高めることにより、人間全体の運動能力を強化しようとの発想に他ならない。

 たとえばミトコンドリアを例に取ってみよう。ミトコンドリアは、各細胞にパワーを与えるエネルギーを製造するものとして知られている。ビーリッツィー氏の研究は、筋肉細胞の中にあるミトコンドリアの数を人工的に増やそうとするもの。それによって、ミトコンドリアが生み出すエネルギーの効率を高めようというわけである。

 この強化されたミトコンドリアを持つ兵士であれば、今まで1分間に80回の腕立て伏せをしていたとすれば、今後は300回も楽々こなせる体力アップが可能になる。重たい荷物や兵器を抱えて、ほぼ永遠に走り続けることも可能になるという。しかも空腹感や疲労感をコントロールできるわけで、食事をとる必要がない兵士が誕生するという。

(つづく)

【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
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 国際未来科学研究所代表。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。

 ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『たかられる大国・日本』(祥伝社)をはじめ著書多数。最新刊はオバマ新政権の環境エネルギー戦略と日本への影響を分析した『オバマの仮面を剥ぐ』(光文社)。近刊には『食糧争奪戦争』(学研新書)、『石油の支配者』(文春新書)、『ウォーター・マネー:水資源大国・日本の逆襲』(光文社)、『国力会議:保守の底力が日本を一流にする』(祥伝社)、『北京五輪に群がる赤いハゲタカの罠』(祥伝社)、『団塊世代のアンチエイジング:平均寿命150歳時代の到来』(光文社)など。
 なお、『大恐慌以後の世界』(光文社)、『通貨バトルロワイアル』(集英社)、『未来ビジネスを読む』(光文社)は韓国、中国でもベストセラーとなった。『ウォーター・マネー:石油から水へ世界覇権戦争』(光文社)は台湾、中国でも注目を集めた。
 テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。「サンデー・スクランブル」「スーパーJチャンネル」「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「みのもんたの朝ズバ!」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)「ミヤネ屋」(日本テレビ)など。また、ニッポン放送「テリー伊藤の乗ってけラジオ」、文化放送「竹村健一の世相」や「ラジオパンチ」にも頻繁に登場。山陰放送では毎週、月曜朝9時15分から「浜田和幸の世界情報探検隊」を放送中。
 その他、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、エネルギー問題研究会・研究委員、日本バイオベンチャー推進協会理事兼監査役、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、国際情勢研究会座長等を務める。
 また、未来研究の第一人者として、政府機関、経済団体、地方公共団体等の長期ビジョン作りにコンサルタントとして関与している。

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