戦場においては、特に十分な食糧やカロリーを摂取することが難しい環境に直面することも多い。そのような厳しい環境下でも、体力や精神力、そして判断力が維持できる。そのような兵士を作り出すことが、DARPAにとっては緊急の使命になっているようだ。
戦場で多くの兵士が命を失う最大の理由は、体力を消耗し空腹にさいなまれ、誤った判断を下してしまうからである。そのような状況から兵士たちを救うために、DARPAでは少なくとも年間400億ドル(約4兆円)の研究を、このような兵士の人体改造計画に投入していると見られる。
そこまで行くと、既に人間なのかロボットなのか、境界線があいまいになりつつあるようにも思われる。しかし現実には、我々の想像をはるかに超えるスピードと範囲で、人体のサイボーグ化が進んでいることは間違いなさそうだ。
人間の脳とコンピュータを結ぶトランス・ヒューマニズムの応用実験は、DARPAがスポンサーをする形で確実に進んでいる。アメリカを代表する軍需産業ジェネラル・ダイナミックス社では、これまで見てきたような人体機能を強化した兵士を現実のものとするための研究委託を30億ドルで請け負った。2010年までには、米軍の全ての兵士たちにボディーセンサ付きの軍服の支給が検討されているほどだ。
ビーリッツィー氏曰く「我々が最も関心を持っているのは生身の人間の命を、どれだけ大切にできるかということである。我々は心の底から平和主義者である。戦争のような悲惨な状況は御免被りたいと思っている。しかし現実の世界には、テロリストもいれば独裁国家も存在し、いつなんどき我々に戦争を仕掛けてくるかもわからない。その時に、我々の兵士が無事戦い抜き、生きて愛する人の元に帰ってこられるようにするためには、ひとりひとりの兵士を“戦うスーパーマン”に変身させて戦場に送り出す必要がある。」
たしかに、もっともな考え方かもしれないが、技術的に可能であるからといって、それを全て人間に当てはめることが、どこまで許されることなのか。いずれにせよ現実にアメリカでは、国家予算の半分以上が国防費に投入されている。
これまで見てきたように、夢を現実のものにする上で、民間の研究開発をリードする役割がペンタゴンに期待されていることは間違いないだろうが、本当のところ同じ情熱と資金なら、戦争や対立の原因をなくす方向に使った方が効果的ではないかと思わざるを得ない。それができないところにアメリカの限界を感じる。
【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
国際未来科学研究所代表。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。
ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『たかられる大国・日本』(祥伝社)をはじめ著書多数。最新刊はオバマ新政権の環境エネルギー戦略と日本への影響を分析した『オバマの仮面を剥ぐ』(光文社)。近刊には『食糧争奪戦争』(学研新書)、『石油の支配者』(文春新書)、『ウォーター・マネー:水資源大国・日本の逆襲』(光文社)、『国力会議:保守の底力が日本を一流にする』(祥伝社)、『北京五輪に群がる赤いハゲタカの罠』(祥伝社)、『団塊世代のアンチエイジング:平均寿命150歳時代の到来』(光文社)など。
なお、『大恐慌以後の世界』(光文社)、『通貨バトルロワイアル』(集英社)、『未来ビジネスを読む』(光文社)は韓国、中国でもベストセラーとなった。『ウォーター・マネー:石油から水へ世界覇権戦争』(光文社)は台湾、中国でも注目を集めた。
テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。「サンデー・スクランブル」「スーパーJチャンネル」「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「みのもんたの朝ズバ!」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)「ミヤネ屋」(日本テレビ)など。また、ニッポン放送「テリー伊藤の乗ってけラジオ」、文化放送「竹村健一の世相」や「ラジオパンチ」にも頻繁に登場。山陰放送では毎週、月曜朝9時15分から「浜田和幸の世界情報探検隊」を放送中。
その他、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、エネルギー問題研究会・研究委員、日本バイオベンチャー推進協会理事兼監査役、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、国際情勢研究会座長等を務める。
また、未来研究の第一人者として、政府機関、経済団体、地方公共団体等の長期ビジョン作りにコンサルタントとして関与している。
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