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山水建設への遺書(22)  社長の品格―その7/野口孫子 氏
経済小説
2009年10月 1日 08:00

社長の品格7

 創業社長山田の制定した企業理念は、坂本体制になって以降全く機能していない。
 この未曾有の経済危機を乗り切るために必要なのは、確固たる「企業理念」、そしてその方針のもと全員一丸になって立ち向かう、ということである。会長、社長は、この企業理念に照らして、あらゆる施策が正しいかの判断を下す必要がある。

 山水建設には、いまだ山田イズムが脈々と流れている。本社の各部署や地方の出先事業所、工場の社員たちは、朝礼や会議で山水建設の手帳に掲げている企業理念の精神を唱和している。
 しかし、坂本がやっていることは、企業理念とは相反することばかり。社員は無力感を感じている。そんな坂本会長や斎藤社長がいくら企業理念を唱えても、言葉の上でのお題目に過ぎない。会社が一つにならないのである。

 トップ経営者というのは、社員のために命を捨てるという覚悟を持ち、自らの地位や首をかけて臨む姿勢を見せないと、部下は付いてこないものである。それなのに、自分たちだけ楽をして、部下に苦しみを押し付ける。指導者としてはあるまじき行為だ。しかし、それでも誰も止めることができなかった。

 今、山水建設では全国的に、お互いに挨拶をしようという運動が行なわれている。
 人を思いやり敬う心が「仁」、その「仁」を具体的に行動として示すことが「礼」である。「仁」と「礼」、これこそが山水の企業理念ではなかろうか。そして、この2つを具現化したものこそが「お互いの挨拶」という運動なのであろう。
 しかし、魂の入っていない半ば強制されたような挨拶には、人を敬う心などない。トップからしてあの有様では、こんな運動をやったところで単にお題目としか映らない。これでは、挨拶された方も敬う気持ちでは返せないだろう。
 まず、経営トップから原点に戻り、企業理念に込められた想いを再認識し直さないと、お題目だけの運動には限界がある。

~つづく~

(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)


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