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経済小説

山水建設への遺書(23)  利権の享受―その1/野口孫子 氏
経済小説
2009年10月 2日 08:00

利権の享受1

 坂本の目指す道は、すべてが利権に通じているといっても過言ではない。

 例のサブプライムローン問題やリーマン・ショックの前の数年間、日本経済は失われた10年により地価が底値を付けていた。銀行の不良債権処理も終わり、日本経済にも明るい兆候が出てきて株価も大幅に回復。世界は金余りの状況を呈し、石油、小麦、希少金属、土地へと投機資金が流れていった。外資が1等地の開発事業に飛びつくように買い入れをし、都会の地価は年率20%~30%も過熱気味の値上がりをしていった。

 その間山水建設も、大型の開発事業案件を次から次へと仕入れて、販売。開発事業が、従来の柱である不動産事業と並ぶまでに成長していた。

 坂本は昔からの付き合いの小さな不動産屋を、東京・大阪の1等地の仕入れに際して仲介業者に入れていた。それも、その不動産屋には実際は関与できる力がないのに、さも関与したかの如くして無理やりにである。そのため、2、3人ほどの小さな不動産屋が、取扱高で年商50億円を超えるほどになっていた。
 坂本のそんな強引なやり方に、昔馴染みの小さな不動産屋との黒い噂がまた当然のように立ち始めていた。数十億円規模の土地の仕入れに小さな不動産屋が関与していることに、怪しげな匂いを感じるのは一般的な感覚だろう。開発事業担当専務の中村もこのことには苦々しく思っていたのだが、それでもこの暴君を止める力や術はなかった。

 しかし、何だかんだ言いながらも、この頃の山水建設は事業に成功し、業績を伸ばしていた。この頃の坂本は自信満々に、中期計画で「2兆円」を目指すとまで記者会見で雄弁に語っていたものだ。
 しかし、そのときの話はいつの間に忘れさられ、今となっては跡形もない。

 坂本は開発事業の業績の良さと不動産業者との癒着の恩恵とに慢心し、世間のひんしゅくを受けながらも相場の5割増しくらいで土地を強引に買い進めていた。

 しかし時代は、密かにバブルの終焉を迎えようとしていた。

~つづく~

(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)


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