利権の享受2
世界的金融危機の1年から半年ほど前、山水建設は相場の3~5割増しぐらいの価格で、競うように大都市の1等地を大量仕入れしていた。そのことに開発担当の中村副社長は危惧を感じていたものの、独裁者坂本に反対することはできなかった。
実はこの頃、リーマン事件の半年以上前からサブプライムローンの問題が露呈し始めていたため、外資の投資会社は密かに本国に資金を引き始めていたのだ。もう少し情報力があれば、大都市の地価が下がり始めていたことを敏感に察知できたのであろうが・・・。
坂本は自分の利権に重点を置いていたのだろうか、依然として土地を買い続けていた。しかし、リーマン・ショック後土地は急速に値下がりし、仕入れた土地が不良資産化し始めたのである。これを機に、坂本と中村の仲は険悪になっていった。それというのも、坂本は不良資産化の責任を中村に押し付けたのである。中村は、本心では反対したかったのであろう。しかし、独裁者坂本に押し切られ、挙句は不良資産の件は中村のせいにされてしまった。
これは坂本の常套手段である。何か問題があると、「自分に責任はない。責任はすべて部下にある」と、常に部下に罪をかぶせてきたのだ。
開発事業での大型案件が飛ぶように売れて坂本が有頂天になっている時期、ロンドンの投資会社からドバイとオーストラリアへの投資の話が持ち上がっていた。ちょうど金融危機の1年ほど前のことである。ドバイはアラブの石油資本の金余りで、巨大開発事業が目白押し、不動産価格が年率30%以上で暴騰、沸騰していた。オーストラリアは鉄鉱石、アルミ等鉱物資源が暴騰していた。
坂本は世界に羽ばたくチャンスと思ったのだろう。その誘惑に乗ってしまった。ドバイ、オーストラリアに数百億規模の投資をしてしまったのだ。ここでも坂本の黒い利権の噂が飛んでいた。事実ではないかもしれないのだが、坂本が不動産投資がらみで動く時は、常に黒い噂が付きまとっていた。
中村は反対したが、開発事業の担当をはずされてしまった。
今ではドバイの大型開発事業は崩壊し、紙切れになっていることだろう。オーストラリアの方は投資した土地にマンション・戸建の販売をするため、「オーストラリア進出」を止むなく決断している。
不幸なのは、海外事業の展開という企業にとって「夢のある事業」が、個人の利権から出ているように思われるところであろう。
(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)
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