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山水建設への遺書(25) 利権の享受―その3/野口孫子 氏
経済小説
2009年10月 6日 08:00

利権の享受3

 坂本は自らの権力を保持するために、あらゆる手段を講じている。
 先に述べたように、後任の社長指名は社長の重大な仕事の一つであり、会社の未来を託すための「社長としての品格と高い志」持っている者を指名することが最も大切である。
 だが坂本は、社長を禅譲する際に自分の意のままになる斎藤を指名した。そしてアメリカ流のCEO(最高経営責任者)会長、COO(最高経営執行責任者)社長体制とし、自分はCEOの座に残ったのである。これでは名前が変わっただけで、従来と何も変わらない。権力は依然として坂本に掌握されたままだった。坂本は、手に入れた権力を何としても手放したくなかったのである。

 本来のCEOの仕事は、目先や現状の経営から離れ、10年先の経営の在り方や方向性を考えてCOOに付託することである。ところが坂本は、従来と変わらず新社長を差し置き、現下の経営方針を打ち出している。そこによほど利権があるのか、必死にしがみついているのだ。
 人口減や高齢化の進行で、建設事業は先細りである。CEOとして、坂本は10年先を見越した施策を考えなくてはならないのに、あいも変わらず社長の仕事と変わりがないことばかりをしている。環境問題に対応する商品の開発、政府の200年住宅の推進に積極的に参画、高品質の商品の開発など、やることは山積みしているのに、だ。

 日本の住宅は従来耐用年数も短いため、15~20年で資産価値はゼロと査定される。中古住宅を売却する際、20年より古い住宅が建っていれば住宅の価値はゼロ、さらに改修費や解体費がかかるため、かえって土地価格から減額されてしまうというケースもある。
せっかく建てた家も20年もすれば価値はゼロ、このような慣習によって、日本ではわずか20年で発生する損失は、5~600兆円ともいわれている。
 ちなみに、欧米の住宅は築年数ごとに値上がりするのが通例である。

 山水建設は、経営方針として「持続可能な住宅建設」を掲げている。そのトップである坂本は、本来であれば業界のリーダーとして不動産流通システムの改善を図ることに執着すべきではないだろうか。我が身の利益だけを考えず、日本のため社員のために、せめて残りの人生で少しでも力を発揮してもらいたいものである。

~つづく~

(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)


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