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山水建設への遺書(26) 利権の享受―その4/野口孫子 氏
経済小説
2009年10月 7日 08:00

利権の享受4

 時代の要請から、CSR(企業の社会的責任)が叫ばれている。
 一般的には法を遵守し、悪いことを行わないことこそが、企業の社会的責任と思われている。しかし本来の意味は、人として、会社として、当然行なうべき任務のことを言っているのである。「企業の社会的使命」と言い換えたほうがいいのかもしれない。法令遵守は、正しい企業理念による行動でなくてはならない。法令遵守を図りながら、さらに慈善活動や文化に対する援助活動を行ない、社会的使命を果たすことが必要なのである。そこまでやって初めて、「CSR」を行なっている企業として認知されるのである。
 ところが世間では、企業理念すらお題目と化し、魂が入っていないことも多い。「悪いことをするな」、「嘘をつくな」、「人をだますな」という、最低限の徳目さえ守れず、テレビや新聞社のカメラの前で、深々と頭を下げる光景を何回も見てきた。食肉偽装や消費期限改ざん、耐震構造偽装、確認申請偽装など、次々と事件が発覚している。勝てばいい、儲ければいい、売上が増えればいい、バレなければいい、そんな風潮が蔓延しているのである。

 山水建設にも、その節はある。経営者が口では綺麗ごとを言いながらも、「法律に触れなければ」、「バレなければ」何をしてもいいと思っているのだ。そのため、大型の事業が行なわれるたびに、どこからともなく黒い噂が流れる。
 「倫理」とは単純に言うと、「良いことをする、悪いことをしない」ということだろう。仕事を通じて世のなかのために良いことをするという精神があってこそ、悪いことをしてはならないという精神が生まれるのである。
 山水建設のなかにも、良識ある役員はきっといるのであろう。しかし、反対意見や意見具申した途端に役員としての地位も報酬も危うくなってしまうことを恐れ、誰もが見て見ぬふりをするという風潮がはびこってしまっている。それどころか、無責任なごますりが横行し、船は山に登ってしまっている状況なのだ。

~つづく~

(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)


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