熱狂から一夜明け、事務所は再び落ち着きを取り戻した。朝から見慣れた顔が並び、せっせと事務所の片付けにあたっていた。支援者も、ごくまれにしか姿を現さなかった。普段どおりの光景、といえばその通りだが、わずか一日でこれほどの温度差を感じたことはなかった。それほど激しいギャップがそこにはあった。
並べられた椅子はすでに撤去され、広くなったフロアではひな壇の解体が進められていた。8月末日とはいえ、むっとする暑さに閉口しながら、数人のスタッフが木枠を崩し、ダンボールをまとめる作業に没頭していた。ただし、嫌な顔はしていない。心のうちに勝利の余韻を残しつつ、勝ち戦をかみ締めるように作業をしているのだ。
「いやぁ、昨日はすごかったね。あんなに早く当選確実が出るとは思わなかった。もっとゆっくりドキドキ感を味わっていたかったんだけどねぇ。これは贅沢な話だね」
と作業の合間に笑みを浮かべる。
昨日までいた20名ほどのボランティアのスタッフたちも、この日を境に顔を見せなくなった。祭りのあとの寂しさがそこにはあったが、けれどもこれからの期待にも満ちていた。
小選挙区での勝利、すなわち福岡5区の民意を受けての当選である。これまでとは意味が違う。那珂川町、春日市、大野城市、大宰府市、筑紫野市、筑前町、朝倉市、東峰村から選ばれた衆議院議員は、楠田大蔵ただ一人なのだ。この地域の声を国政に届けられるのは、楠田大蔵だけなのだ。
国政を経験するも、小選挙区では連敗を喫してきた楠田氏。今回やっと屈辱を果たすことができた。今からは実績を重ねなくてはならない。今回投票してくれた多くの人、それだけではなく、選挙区に暮らす全ての人々の思いを国政の場に届け、そしてよりよい生活を具体的に実現していく。選挙は、生活の大きな選択である。未来への期待を背負って、国会議員として何を成していくのか。選挙区に暮らす人の想いは、若い楠田大蔵の双肩にかかっている。その期待の大きさゆえ、応えられなければ大きな落胆にもつながる。期待に応え続けることができるのか。今からは、その一挙手一投足に注目が集まることとなる。
若さ、情熱のすべてを国政の場で発揮して欲しい。それこそが、投票してくれた選挙民の思いに応えることであり、力の限り支援を叫び続けたボランティアへの恩返しである。喜びの第一幕は、すでに幕を閉じた。今から戦いの第二幕が始まるのだ。
空を見上げてみる。雲が高くなっている。季節は秋にさしかかっていた。
【柳 茂嘉】
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