利益の享受5
坂本は会社のトップとして、際限なく利益を享受している。
名経営者の後に、名経営者が続くとは限らないといわれている。この言葉に違わず、名経営者山田の後、山水建設では営業経験のない中井が後継者となった。中井自身は地位に長く執着する人でなかったため、権力欲の強い坂本に対しての危惧を持ちながらも、トップの座を譲ってしまった。坂本は周囲からゴマをすられ、甘い汁を吸い、ますますその権力にしがみつきたくなっていた。やりたい放題できる利権を手放さないために、ありとあらゆる方法でしがみつく方策に終始した。そして編み出されたのが、自らCEO会長に就任し、その権力を温存するという手法である。イエスマンばかりを手元に置き、いつのまにか油断や奢りが出ている。
欲深い人間の弱さなのだ。組織内のガタつき、内部告発、不祥事が跡を絶たないのも、この心の緩みのためである。
いつのまにか坂本は、「自分がいないとこの会社は成り立たない」、「自分がこの会社の利益のすべてを出している」とまで錯覚している節がある。こうなると、利益が出なくても出たように粉飾をしてしまう。越えてはならない一線を越えてしまうこともあるだろう。
人間とはこのように弱い存在である。だからこそ、トップは人格と強い倫理観を持っていなければならないのである。
坂本に言いたい。
「君は何人の部下を辞めさせたか」。
「君は目先の数字をあげるのに血眼になり、部下をこき使い、尻を叩き、追い込んだだけでなかったのか」。
「人間として、職業人として、部下の成長を支えるという責任を肝に銘じていたのか」。
部下は、トップの使命感やビジョンに奮い立ち、その人柄に惚れこめば「無理がきく」ものである。この経営危機を乗り切るためには、この「無理がきく」こと抜きには無理だろう。
経営の神様、松村電器の松村さんの言葉に「100人までは命令で聞く。1,000人になれば、頼みます。1万人超えると拝む心がないと人は動かない」とある。創業社長山田には、この拝む心があった。だからこそ全社が1枚岩となり、危機に立ち向かえたのである。
さびしいが今の山水建設は、とても1枚岩とは言えない。
(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)
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