抜本的改革1
建設業を取り巻く市場は閉塞感に覆われている。高齢化社会、少子化で、徐々に市場がシュリンクしていくことは想定されていた。そこに、100年に一度の経済危機の到来である。もろに、ダメージを受けてしまった。過去にも、東京オリンピック後の不況、オイルショックによる不況、バブル崩壊による不況と数々の危機はあった。それらの大波を受け、市場から去っていった企業は数限りがない。
しかし、山水建設はその都度、創業社長山田のもとで不況を乗り越えてきた。不況を逆に千歳一遇のチャンスととらえ、先発の日本建設を追い抜いた。不況が来るたびに大きく水をあけ、いつのまにか押しも押されもせぬ業界No.1の企業となっていた。
その原動力は、誰もが山田社長を尊敬し、崇拝して山水建設を愛していたことによる。誰にも言われずとも社員は自発的に、毎日夜遅くまで、さらには休日も返上して頑張っていた。「無理がきく」社員の集団になっていたのである。
山田も、業績が悪くて通年のように賞与も払えないときは、「社長の責任だ。申し訳ないが辛抱してくれ」と会社の状況について、社員に理解を求めていた。日頃から、「わが社には労使はない、労労だ」と、組合がないことを誇りにしていた。だからこそ、きっちりと説明を行ない、理解を求めていたのである。もちろん役員の賞与も、一般社員以上に減額したうえでのことである。社員もそれを分かっているから、全員が山田の苦境に、なお一層頑張ろうとしたのだ。
今、新社長の斎藤が、「わが社には伝統がある。今の危機に一致団結して頑張ろう」と言う。しかし残念ながら、現経営陣、特に実権を持っている会長坂本と社員との間には、信頼関係などない。組合がないことをいいことに、一方的な通達で社員の賞与はカット、反面、自分たち役員の報酬は知らぬ間に増額している。そんなことをして、社内に一体感が生まれようはずもない。斎藤社長の言葉も空念仏にしか聞こえてこない。昔のような、燃えるような社員の勢い、「よし!やろう!」という声も、現状では全く聞こえてこないのは当然といえば当然だろう。
(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)
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