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山水建設への遺書(31) 抜本的改革―その3/野口孫子 氏
経済小説
2009年10月15日 08:00

抜本的改革3

 坂本は斎藤に指示して、構造改革をするとしている。
 一番の目玉は本社、工場要員の第一線への配置転換作戦だろう。社員の昇給停止や賞与のカット、経費節減は当然のことである。
 しかし、ここまでに及んでも、役員の報酬カットは行なおうとはしない。本来まずやるべきは、自分たちの責任を宣言し、報酬カットを打ち出すのが筋ではないだろうか。最近になり、やっとその動きも出ているようだが…。
 改革と称しても、実際にやらなければいけないことは、社員の士気が低下してしまうようなことだ。であれば、責任を果たす意味でも、まず経営者が率先して報酬カットを宣言すべきであった。

 しかし強欲な坂本は、自らの報酬は減らしたくないのだろう。自分たちの役員報酬は、坂本の社長就任以来10年で倍に引き上げているにも関らず、である。良識のある役員であれば、「まずは役員報酬の引き下げから」と思うものであろうが、それを言い出す者は誰ひとりとしていない。
 坂本が社長に就任して、10年が過ぎようとしている。本業の建設部門は、数年前から業績は伸ばすどころか低迷を続け、業界No.1から2位の座に転落している。そのため、上場していた不動産部門の子会社の上場を廃止させ完全子会社化して、売上数字を上乗せしたのである。
 この苦肉の策によって、本来なら業績ダウンであるところが、表面的には大幅な増収増益となったのである。

 創業社長の山田は「全員が経営者。利益が出れば半期ごととは別に、3月と9月にも、合わせて年4回の賞与を出す」としてきた。しかし坂本は、業績の悪いことを理由に一方的に9月分の賞与を廃止。さらには3月分までも廃止にしようとしている。これでは社員の年収は、150万程度は減収になることだろう。
 さらに、収益を上げる第一線への配置転換により、本社工場経費の削減を目論んだ。配置転換させられた社員が落ちこぼれて退社すれば、人件費の節減にもなる。もう綺麗事を言っている場合ではなく、なりふり構わぬやり方をしてきているように思える。経営者として会社の危機存亡のため、やらなければならないことは批判があったとしても断固やらねばならない。
 社員はそんなことは百も承知である。ただ、自分たちのみに痛みを押し付ける、坂本の姿勢や経営方針に、納得がいかないと思っているのである。

~つづく~

(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)


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