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山水建設への遺書(32) 抜本的改革―その4/野口孫子 氏
経済小説
2009年10月16日 08:00

抜本的改革4

 今回の大不況は、なにも山水建設だけを襲っているわけではない。全産業、とくに建設業により激しく襲っているのである。しかし、とりわけ山水建設は他社より落ち込みが大きかった。

 業績が悪くなれば、経営者のやることはどこも同じである。構造改革と称して、経費の切り詰めや余剰人員の削減を行なおうとするものである。しかし、山水建設は、少子化や高齢化の進行で、建築着工戸数は100万戸を割り込もうとし、市場がシュリンクする時代に何をすべきかの対策を打たねばならないとき、無為に過ごしていたのである。

 そんな折に、追い打ちをかけるように、大暴風、経済危機が到来した。
 坂本に先見の明があれば、経済危機の前に、市場の縮小に対する対策は打てたはずである。しかし、坂本会長、斎藤社長、他の経営陣は過去の成功体験が邪魔をして、新商品の開発を怠り、低価格時代の流れに乗らずに相も変わらず高級路線・高価格路線を貫いていた。そのため、一番の需要層である、30代を中心とした人々にマッチングする商品を持っていないのである。
 坂本はエコ対策には熱心で、エコを打ち出しての企業イメージアップには寄与していた。しかしながら、それは売上に結び付くまでには至っていない。
 もともと、山水建設は創業社長山田の努力で、品質のいい、クリーンなイメージを定着させていた。山田の時代、世間の主流は粗悪な木造建築で、しかもメンテナンス体制もないのが普通であった。そこに高品質・高サービス体制のある山水建設が、「安心、安全」を押し進め、お客さんを満足させて評価を得たことが、業界No1へと繋がっていったのである。
 しかし、時代は急速に変わってきていた。この変化を見過ごした経営者のマーケティングの誤りが、今日の業績の悪さと結びついているのである。このことに反省もせず、社員にしわ寄せや苦難を強いているのは、本末転倒ではないだろうか。

 独裁者ヒットラー時代、「ワルキューレ作戦」というものがあった。非人道的なユダヤ人虐殺、反体制派の弾圧・粛清に対して、良識あるドイツ将校たちがヒットラー排除計画を実施したことをいう。
 このように、独裁者に対しては、常に悪を正そうという動きがあることを忘れてはなるまい。

~つづく~

(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)


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