◎高齢社会で求められる中食の役割
中食ビジネスの成長は、消費者の豊かな食生活と合理的な食事という二つの追求に裏打ちされる。消費者はこれらをうまく使い分けているが、今後は二つの追求を高齢者の食事という面からも考えていかなければならない。
現在、消費者の生活単位は核家族から夫婦二人暮らし、さらに一人暮らしとますます小規模化してきている。合理的な食事のニーズが高いのはそのためだ。
高齢者家庭でも彼らの食習慣や料理の好みはあるものの、一人暮らしのお年寄りになると、豊かさというより利便性の方が好まれるはずである。
食が豊かさの追求と合理性の追求に二極化する中、高齢者の食事には健康、長寿、ユニバーサル、安心など、さらにきめ細かなニーズへの対応するが求められてくる。
言うなれば、食が個食化、パーソナル化しても、高齢社会では高齢者家庭と他の家庭とが心を通い合わせるコミュニティをつくったり、それに対応した商品・サービス、新たな食の楽しみ、食事の提供が求められるわけだ。
つまり、高齢社会では、高齢者一人一人の生活スタイルを守りつつ、その人が他人と交流することをミックスさせることがカギになる。例えば、マンション住人によるホームパーティや町内単位での食事会などである。
食が二極化する中で、個人と社交をいかに考え、この役割をどこまで担えるかが今後の中食ビジネスでは重要になる。
◎老人介護に置ける中食の活用性
日本では65歳以上の老人人口が2,600万人を超え、総人口に占める割合は20.8%に達している(06年総務省人口推計)。高齢化率は2009年には22.7%となり、世界に類を見ない水準に到達した。高齢者は2015年には総人口の26.0%(3,277万人)と、およそ4人に1人が65歳以上になると予測されている。
高齢者のうち、要介護者は15%に達する。介護保険制度が導入され、40歳以上の勤労者が保険料を負担しているが、財源不足は否めない。民主党は総選挙のマニュフェストで、後期高齢者医療制度の廃止や介護労働者の賃金アップを打ち出したが、限られた財源の中での高齢者医療の制度設計は簡単ではない。
それゆえ、今後は高齢者自身が病気にならないこと、つまり予防も必要になってくる。すでにEUでは要介護者を増やさない、病気にならないようにする社会整備が進ちょく。特に老人施設では食事ができる間はちょっとくらい腕が痛くても、自力で最後まで食べられるような対策に力点が置かれている。
日本でもこうした取り組みが必要だろう。わざわざ施設を作らなくても、ファミリーレストランがあるのだからそれを利用する方法もある。ファミレスは若者が喫茶店として利用するか、高齢者の憩いの場と化して、家族団らんの姿なんかはない。ただ、メニューは高齢者向けにできていないため、中食と提携したイベントや特別メニューづくりをすれば、ビジネスチャンスは大いにあるはずである。
【剱 英雄】
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