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山水建設への遺書(33) 抜本的改革―その5/野口孫子 氏
経済小説
2009年10月19日 08:00

抜本的改革5

 山水建設の経営陣は、坂本の登場ですっかり変わってしまった。会社の業績を悪化させた大きな原因は、間違いなく坂本にある。坂本は会社を私物化し、恣意的な人事を行ない、人心を荒廃させてしまった。
 社員と信頼関係のない経営者がいくら檄を飛ばしたところで、誰も踊るわけがない。
 しかし、当の坂本本人は、自分がいないとこの会社は持たない、とうぬぼれてさえいる。何と、ノー天気な感覚なのだろうか。
 この不況を乗り切るには、むしろ坂本がいなくなった方が一致団結の気風が生まれてくる可能性がある、と思う人が多い。
 業績が悪いのは、世間の不況のせい、経営ができない斎藤社長のせい、働きが悪い社員のせい、として、決して自分には責任はないと思っている。

 今期、対外発表では大幅減収減益の修正を行なっている。さらに赤字に落ち込む可能性もあるが、坂本は斎藤社長COOに最高執行責任者として責任をとらせることで、自分自身はのうのうと生き残りを模索しているようだ。
 抜本的構造改革と称して、人件費削減のための人事異動、あらゆる経費の節減など、次々と対策を打ち出している。すべて後ろ向きの施策である。しかし、これらの施策を打ち出したところで、経営陣、特に坂本が責任を感じない限り、社員は無理をしてまでやろうという気にはならないだろう。
 経営陣からは本気度が感じられない。建前だけの綺麗ごとを言って部下に指示しても、部下は動くまい。まず、経営陣が泥をかぶる姿勢を見せないかぎり、下役から盛り上がりは生まれないと知るべしである。
 ここまで業績が悪くなってしまうと、もはや現状の会社には明るくなれるような材料はない。みんなで苦難を共有する心の輪をどう作るか。役員も社員も平等に報酬カットを受け入れ、堪難辛苦、再起のため、明日のため、今一度社員が結束できるかにかかっている。
 ともあれ、まずは経営陣の猛省が一番の改革だと思われる。

~つづく~

(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)


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